2020年3月24日火曜日

人力地球縦断 パタゴニア

若者に外に出るな、といっても、おとなしく引きこもるわけもありません。だけど、ここでどう過ごすかで、一生が決まる人もいるかもしれません。チャンスに変えましょう。こんな本をおすすめします。

世界を旅して回りたい、というのは誰もが思うもの。とくに家にいろ、といわれる今はなおさらのこと。ならば、とお勧めなのはこの本、九里德泰さんの若い頃の冒険談、「人力地球縦断」、山と渓谷社が1994年に出版した本、それとその完結編、「人力地球縦断 中南米編」です。こちらは5年後に出版されました。

冒険譚は数多いですが、この本は別格。著者は、現在は大学で環境デザイン学を教える先生ですが、大学生だった頃に、北極圏から南に、自転車などで南アメリカの最南端に向かうという、無謀な冒険をはじめました。

その卓越したサバイバル能力、人とのコミュニケーション能力はもとよりも、なによりも驚いたのは文才。とても自然に、わかりやすく語ることができる能力。これは天賦の才で、努力して得られるものではありません(痛感してます)。この本は、当時、随分話題になりました。だけど、今、アマゾンで見ると、とくに後半の本は、ほとんど語られることも無く、寂しい状態。埋もれた良著です。特に、パタゴニアを渡る、辛く暗い格闘の日々、そしてその中で語られる同行者である奥さんのさりげない愛情。COVID19があってもこの世界は素晴らしい、そう思わせるものがあります。

パタゴニア、という言葉の響きは好きです。かつて、椎名誠にも、同名の旅行記がありました。彼にしては珍しく、暗いトーンの異色の紀行記ですが、やはり、パタゴニアはこの地の果ての国、絶えることなく強い風の吹く、雨もやむことのない世界のイメージなのでしょう。ブルース・チャトウィンという、かなう限り自由奔放な人生を謳歌した英国人によって描れた同名の小説(のようなもの)があります。これは、池澤夏樹の個人世界文学全集で読むことができます。

このようにはじまります。
「祖母の家の食堂にガラス張りの飾り棚があった。飾り棚の中には一片の皮があった。それはほんの小さな切れ端で、ぶ厚くごわごわしており、赤茶色の堅い毛がくっついていた。皮には錆びたピンでカードが留めてあった。カードには色あせた黒インクで何か書いてあったが、それを読むには私は幼すぎた。
「あれなあに?」
「ブリンドサウルスの皮よ」
母は先史時代の動物の名前をふたつ知っていた。ブロントサウルスとマンモスだ。それ我慢の酢の物ではないことを、彼女は知っていた。マンモスはシベリアにいたのだから。
・・・・・・」

私はここを読んで、読むことにしました。

「このブロントサウルスは世界の果て、南米の一地方、パタゴニアに棲んでいた。何千年も前、氷河に落ちて青白い氷に閉じ込められていたのが、そのまま山を下り、完璧な状態でふもとまでたどり着いたのだ。ブロントサウルスはここで、祖母のいとこ、船乗りのチャーリー・ミルワードに発見された。
 チャーリー・ミルワードは商船の船長だった。彼の船はマゼラン海峡の入り口で沈没する。生き延びたチャーリーは近くのプンタアレナスに落ち着き、そこで船の修理工場を営んだ。・・・・」

いつまでも引用していたいくらい。繁華街にたむろしてないで、こんな世界の中を彷徨ってみましょう。