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2020年12月29日火曜日

緑内障にニコチンアミドが有効

 前にも書いた、緑内障にニコチンアミドが有効か、という話、ずっと行っていたオーストラリアのメルボルンにあるCentre for Eye Research Australiaでの臨床試験の短期間の結果が夏に出ていました。

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/ceo.13818

ニュースはこちら。

https://medicalxpress.com/news/2020-07-vitamin-b3-glaucoma-patients-clinical.html

49名の緑内障患者を2つに分けて、6週間のセットを4回、偽薬かニコチンアミド、入れ替えて投与し、各セットの後で診察して数値を取ってます。I群では偽薬を2セット続けて、その後、ニコチンアミドを0.5g錠剤を一日三回、計1.5gを6週間、ついで1.5g錠剤を朝晩に飲む3gのセットを6週間行いました。これで、同じ人で、ニコチンアミドが偽薬よりも有効だったかを知る事ができます。

評価に使った数値は光に対する網膜の応答で、少々、専門的ですが、どれくらい見えてるかの定量化になるのかな。


 AとBでは異なる網膜の活動を示していて、最初のニコチンアミド1.5g/dayよりも次の6週の3g/dayのほうがより高い数値を示してます。CDはまとめで、1.5g/dayと3g/dayをそれぞれ6週間投与すると平均12.6%の改善が見られています。視野については、ニコチンアミド投与された27%の人が改善され、これは偽薬では4%の低下だったとのこと。

これは眼圧とは関係がなく、ニコチンアミド投与しても眼圧は変わらなかったそうです。つまり、他のところで効いていて、たぶん網膜神経節細胞での代謝の変化だろうと考えてます。他に言いようがないでしょうが。

これは12週という短い時間での検討なので、もっと長い時間でどうかというのは、現在進行中だそうです。量については、3Gというのは経験的なものといってて、長期的にはまた変わってくるかもしれませんが、ニコチンアミドはこの研究でもほとんど副作用が出てないので、緑内障で使わない手はないのかもしれません。ただ、長期的に使うと悪くなるという可能性も0ではないので、やはり、待てる人は待ったほうが良いでしょうか。ともかく、緑内障の有力な治療となりそうな感じはします。

2020年11月20日金曜日

早くアルコールを抜きたいとき

アルコールの代謝は意外と遅く、飲んだら翌朝まで残るものです。年の暮れも近づき、大学から厳しくお達しが来ます。ついつい飲みすぎてしまったとき、翌朝の運転は恐ろしいものがあるかもしれません。なお私はそもそも免許を持ってないので、この恐怖はvirtualですが、人を見てると、どきどきすることがあります。

早くアルコール濃度を下げるのにどうしたらよいか。血中のアルコールはもちろん腎臓によっても代謝されますが、実はその割合は小さく、呼気によって出ていく量のほうが大きいことが1世紀前から知られていたそうです。つまり呼吸を激しくすれば血中のアルコールは減るということ。だけど、これはすぐに過呼吸になるので、あんまり現実的じゃありません。呼気検査を受けるとき直前にやれば多少は下がるのかもしれませんが、まったくお勧めしません。

というのはともかくとして、これには、炭酸ガスを含む空気を吸えばいいのかもしれないという論文がトロント大の麻酔科からScientif Reportに発表されました。

この実験では5人の被験者に1Kgあたり0.5gのアルコールを5分間のませ(つまり少量の飲酒ではあります)、5.5%炭酸ガスを含む空気を吸わせました。これを等炭酸ガス過呼吸というそうです。Fig1にその結果がありますが、大体90分くらいすると、血中のアルコール濃度は1/3くらいにさがりました。なおこれにはリバンドがあり、この空気を吸わなくすると、また濃度が上がったそうですが。

ということは、細胞培養に使う炭酸ガスインキュベータに頭を突っ込んで2時間くらいいればいいのかな。そんな漫画みたいなことしなくても、5%炭酸ガス/空気というボンベがラボにありました。これを吸えばいい?

だけど、呼吸には酸素濃度は厳しく20%である必要があり、10%になると意識を失い8%で死ぬので(6%では一息で死亡)、一般家庭で試してみるのは危険です。こんなことに命はかけないようにしましょう。だけどがんばって気を失わないように袋を口に当てて過呼吸を続けると多少は早く抜けるのかもしれません。酸欠にならないように要注意ですが。

となると、あんまり役に立たない知識でしたが、水飲んでもだめなのね、ということはわかりました。

2020年10月9日金曜日

レビー小体型認知症治療薬、Ph2へ

 認知症の中でも最も厳しく治療薬のないのがレビー小体型認知症。私の父はこの病にかかって5年の闘病の末亡くなりました。本人がその病の進行を自覚でき、治療もないことがわかっているので、とても残酷な病気です。子供らは好き勝手に遠くにいるので、お袋が一人で看病をがんばって続けましたが、日々、壮絶さを増し、最後の1年間は施設になりました。高齢とはいえ、本人も周りも辛いものがありました。

レビー小体型認知症は主にαシヌクレインが凝集して大脳で蓄積して起きるとされてます。脳幹で起きればパーキンソンです。アルツハイマー型はアミロイドβとタウの蓄積によるとされてます。かなり対症療法的ではありますが、パーキンソン病に対する治療法は大分進歩して、30代でこの病にかかったマイケルJフォックスは、積極的に治療に取り組んだ結果、俳優として再度スクリーンに登場できるまでになりました。アルツハイマー病に対する抗体治療薬のことは前に書きました。

レビー小体型認知症はこれに対して、治療らしい治療がありません。医者もこれになるとあきらめます。父親の場合、本人の前で、治療法がなく悪くなる一方であることを散々云って、落ち込ませてしまい、ひどい医者だとお袋が怒ってました。私も医学教育に携わる人間として、こんな医師を世に出してはならないとは思います。ただ、それが医学のコンセンサスであることは否定はできません。

直りはしないまでも、治療法はあって欲しいと願います。ここで、ようやく新しい薬の可能性が出てきました。neflamapimod(ネフラマピモド)という飲み薬が米国で第二相の臨床試験において、主要目標の認知機能改善において効果が認められたそうです。こちら。

https://www.prnewswire.com/news-releases/eip-pharma-announces-positive-phase-2-results-for-neflamapimod-in-mild-to-moderate-dementia-with-lewy-bodies-dlb-301146415.html

この薬は、p38αというタンパクリン酸化酵素の阻害薬です。最近わかってきたことは、この酵素が、ストレスなどで炎症を起こしたときにシナプスで増え、それがさらに炎症を起こして神経細胞を破壊するらしいということです。ならばこれを抑えればいいだろうというわけで出てきたのがこの阻害剤。

細胞レベルでの試験では、アルツハイマーで損傷することがわかっているエンドサイトーシスの機能を正常に戻す作用があることが示されてるそうです(この論文は発見できず)。そこで、これをアルツハイマーの患者7名(125mg)と9名(40mg)で試したところがこちら。


上が短期記憶、下がエピソード記憶。12週間のテストです。記憶のテストで明らかに量に応じて改善が見られてます。ただし、認知力には変化は見られなかたそうです。この結果、数が少ないことと、なぜbase laneのところで投与群に差があるのか、わかりませんが。

これはアルツハイマーの結果ですが、レビー小体型認知症の治験でも、有効であるという判定がついたという発表が、詳しくは11月の13th Clinical Trials in Alzheimer's Diseaseで発表されるそうです。期待が持てそう。ただ、p38αはシナプスに限らず全身に出ていて、いろんな信号の伝達に関わる酵素なので、長期的に飲んでも大丈夫なのか、気になるところではあります。この試験期間ではとくに副作用は見つからないとのことでしたが。

2020年9月17日木曜日

4桁のパスワード

昔のパスワードは簡単な覚えやすいものにするのが普通でした。古き良き時代。とはいえ、オンラインATMでありながら昔ながらの4桁の数字パスワードが健在なのが、地方銀行などのオンラインアカウント。4桁だと、どれかの番号に誰かがいるので、いわゆるリバースブルートフォース攻撃されたら、誰かの口座番号がハックされてしまいます。案の定、ドコモ口座をはじめとしてPayPayなどもなりすまし利用が広がってきてます。こののんびり感は別格にしても、Pinではともかく4桁の数字が普通です。

ではどのような4桁数字パスワードが使われてるのか。調べた論文が出てます。ケンブリッジ大のComputer labからのもので
A birthday present every eleven wallets?
The security of customer-chosen banking PINs
という題名。

ここで使われたデータは主にRockYouというsocial gamingから2009年に流出した3千2百万件ものパスワードと、iPhoneの開発者が出版した20万件のデータに基づいてます。古いものになりますが、この論文の主旨とはちょっと違って、意外と下の図が面白い。

頭の2桁と後半の2桁についてプロットしたものがこちら。
もし完全にランダムなら、平坦になるはず。スポットや線などの何らかのパターンは、意図的なパスワードです。この頃はまだ、パスワードに1234を使ってる人が多いことが、(12,34)の濃いスポットからわかります。また斜めの線は、2525等、xyxyのパターンです。左下が濃いのは、前半に00から30まで後半は00から12までを使う人がなぜか多いということです。前半が19と20が多いのは、自分か子供の生まれた年でしょうか。

また後半に10、11、12を使う人も多いのは横の帯が示してます。だけど、2512から2552までの線は一体なんだろう?

あちこちにスポットがでて、かんたんなところでは逆連番の4321が結構濃い。9876もあります。こんなのとは違って謎めいたスポットのいくつかについて、ネットでその解明がされてます。5683はラテン語圏でloveの隠語、5452はタガログ語圏で愛してますの隠語、とか。なんなの?

今ではもっと平坦になって、スポットも帯も消えているのでしょうか。メモ無しで誰でも記憶できるPWだと、これくらいになってしまうのなら、やはり別のステップを入れる必要がありそうです。

2020年9月1日火曜日

お米の無機ヒ素のリスクはどれくらいか

日本での食生活習慣として世界的にまともなところでよく取り上げられる懸念は放射能ではなく、お米に含まれる無機ヒ素。私はお米大好き人間なので、とても気になってきました。この前見たネットニュースで食品に含まれるアクリルアミドの問題点が指摘されていて、その中で、アクリルアミドはお米と比較するとリスクは遙かに低いという話がでていて、改めて調べてみました。講義のネタですが。

さすがに数年前に調べたときから大分進んでいます。お米は土壌中の無機ヒ素をよく取り込みます。まず基本的な数字として、標準的なお米に含まれる無機ヒ素の量は、お米(精米)一キロにして200μg、1合を150gとすると30μグラム。また、日本人はどれくらい無機ヒ素を摂っているかというのは研究があり、たとえば東大からでてる学位論文(小栗 朋子「日本人の無機ヒ素摂取量とその健康リスク」ではこのような分布をとるそうです。



無機ヒ素は発がんを起こすことが知られています。これはきれいな容量依存性があります。EFSAによると、1%の発がんリスクをあげるには一日あたり、私の(理想とする)体重70kgだと一日あたり21~560μg(95%信頼区間)の無機ヒ素をとる必要があります。

つまり、上の摂取量とこの1%発がんリスクの範囲がかぶるかというのを考えると、発がんリスクの分布が左右にひどく偏ったものでない限りは、日本人の摂取量で、発がんリスクを1%あげることは、おおざっぱにいって9割方なさそうに思えます。

これを気にして仮にお米をやめたとすると、他のものを主食代わりに摂ることになり、それが野菜でも肉でも、あるいはパンやパスタでも、健康リスク全体としてあげてしまうこともありえます。たとえば食パンで100gで1.3gの塩化ナトリウムなので、一日の塩分摂取量を結構おし上げます。

つまりコメかパンかということになると、無機ヒ素10~20μgか塩化ナトリウム1.3gか、どちらのリスクをとるかということになります。私にはご飯のほうが健康リスク全体を考えればシスクは低いようには思えます。とはいえ、欧米では子供にはお米は主食にしないよう、提言がなされてます。これは、2016年にFDA、米国食品医薬品庁によって出された検討結果にまとめられています。こちら
https://www.fda.gov/files/food/published/Arsenic-in-Rice-and-Rice-Products-Risk-Assessment-Report-PDF.pdf

長くて全部読めるものじゃないですが、ポイントはこの表あたりでしょうか。

無機ヒ素ではとくに膀胱ガンと肺がんが増えるようです。これは100万人で生涯に(上2行)、あるいは子供で(下2行)どれくらいこれらのガンになるかを示しています。コメの2つの種類、またヒ素を減らした炊き方(コメと水を1:6にして炊いてその水を捨てることで60%のヒ素を減らす炊き方)をした場合、どれくらいガンが減るかを予測したものです。そもそも後者の炊き方、私としてはやめてくれ、といいたいのですが、たしかにヒ素が減ればガンは1/3近くまで減るらしいことはわかります。

ただし、それよりも大事なことは、1万人に一人ガンになるくらいのリスクをどれくらい考慮すべきか。それによるベネフィット、あるいはコメを摂らない場合に代わりに摂る食物によるリスクも考慮されないといけません。

FDAでは、妊娠した女性、子供においては、コメだけを主食にとるのではなく、多くの食物を摂るようにという提言をしてます。概ね、欧米ではこういう提言がされてるようです。だけど、上のように考えたとき、どうしても自分たちの文化を優先するのはどの世界でも同じかと思ってしまいます。結論として、あんまり心配するようなことではない、というところに落ち着きそう。そういえば、私の父親はイネの研究者でしたが、元気だった頃、大分前にそんなこと言ってたのを思い出します。とはいえ、イネの品種改良では、無機ヒ素の取り込みを減らした品種を作ってほしいものです。

2020年8月29日土曜日

アルツハイマーの新薬、疑惑

去年の暮れに出ていたアルツハイマーの2つの新たな治療薬の件、前のブログに書いてました。こちら。
http://paidevali.blogspot.com/2019/11/blog-post_7.html

この記事にはアクセスが多く、また私も気になってました。調べたところ、新たな情報が新型コロナの中に埋もれてました。この記事で書いたOligomannateが米国で治験になったという話。4ヶ月前に出てました。
  https://www.beingpatient.com/seaweed-alzheimers-drug-clinical-trials-oligomannate/
アデュカヌマブについては日本での進展が報じられる中、遙かに安そうなOligomannateの続報がないかなと検索して、私の見てる医療系のニュースサイトでは出てなかったので気がつきませんでした。こちらには出てます。
https://response.jp/release/kyodonews_kaigai/20200428/66456.html

そしてさらに、検索してると、7月には待望の中国でのPhaseIIの治験の結果がpreprintサーバーに出てました。査読中と思われます。
https://europepmc.org/article/ppr/ppr184086

一日600、900mg(それぞれ、150mgのカプセルを2つ、3つとあるので量は半分になるはずだけど、1日2回なのかな)のoligomannate (GV-971)と偽薬を軽・中度のアルツハイマーの患者に24週間投与して、結果は統計的に有意ではないが効く傾向にあるという内容。これは希望が持てるとは思ったのですが、この治験が行われたのは2011年10月から2013年7月。ん?たしかに、そもそも中国国内では既に条件付きとはいえ使われてるはずで、となると、PhaseIIIも済んでるはず。

どうも妙な気がして、さらに調べました。すると、この記事。
https://www.sixthtone.com/news/1005912/neuroscientist-speaks-out-against-chinese-alzheimers-drug%2C-again

7月にSIX TONESという中国の非政府系メディアから出ている記事にたどり着きました。これによると、北京にあるCapital Medical Universityの学長Rao Yiという著名な学者(と書いてある)が、この一連の研究について、疑惑があり調査すべきである、という主張をしていて、すでにNational Natural Science Foundation of Chinaに調査をするような要請を行ったとのことです。

彼の疑念は、このoligomannnateの薬、GV971に関する一連の12報の論文と、上のブログで紹介したCell Researchの論文が一貫してない、ということと、この薬の効き目が彼らの云うような広範囲な作用の結果によるものならば、もっといろんな副作用が起きるはず、ところが、彼らの論文では有効な作用しか書かれていない、という2点のようです。

具体的ではないですが、これらの疑念は確かに、この話の全体に感じるものでもあります。これに対する他のレスポンスはなかなか見つけられません。アルツハイマーの新薬というのは世界中が待ち望まれています。唯一、これ以外にあるのが今進んでいるアデュカヌマブ、日本ではエーザイが動いています。だけどかろうじて効くのかどうかくらいで、ものすごく高いことは確実な薬。

アルツハイマーには世界中で膨大なお金がつぎ込まれ、多くの薬が登場しては消えてきました。このOligomannate、GV971は2003年以降ではじめて(限定付きとはいえ中国で)承認されたアルツハイマーの薬。国としても期待するでしょうし。それにこれは海草からの抽出物で圧倒的に安い。42カプセルで128ドル。一日6錠使うのなら高いですが、それでもアデュカマブとは比較にならないでしょう。副作用がないのは確かなようなので、多少でも効く可能性があるのならいいのかもしれません。もしかしたら、アデュカヌマブ程度には効くのかもしれない。おそらく、そういうことすべてを踏まえての米国FDAからの承認のはず。

だけど、がっかりです。どうかなあとは思いつつも、期待の新薬ではあったのに。この疑惑は重く、フォローが必要です。

追記 2021/06/12
アデュカヌマブの条件付きの承認で治験がはじまりました。実はこの記事の3ヶ月後には、上に書いたGV971の米国FDAでの米国・ヨーロッパでの治験が承認されてはじまっています。こちらに書きました。https://janushons.fc2.net/blog-entry-35.html

2020年6月27日土曜日

もったいない

人が儲けたお金の使い方にどうこういうのは野暮というものですが、100億円という金額をサイエンスのために出そうというのなら、もっと有効な出し方があろうにと思ってしまいます。柳井氏の京大2ノーベル賞受賞者への寄付の話。それなりに成果は出すでしょうが、これから新しいサイエンスを生むような投資ではありません。ご本人が言っておられるように、安いiPSの作り方などと聞くとがっかりします。

そもそもそういうことに良い人材が集まるわけもないし、そんな研究を行っても、若者の次の職探しは厳しい。何か一つの分野に対して大きなお金を出すということを文科省はよくやってますが、これで採用された若手が任期が切れて次のポストが見つからず、犠牲者がかなり出ます。今回の寄付金に対象を絞ったものにするとその被害はもっと大きなものになるでしょう。

100億あれば、生命科学の世界では、もっと大事なこと、人間の世界を深い意味で高めてくれる数多くの可能性に大きな投資ができます。斬新な新しい科学の可能性に投資を続けるビル・ゲイツに比べて、あまりに貧しい。ユニクロらしいといえばそうなのだけど、日本人としてがっかりします。これをやるなら、大学でなく、ユニクロの中に研究所を作って正規職員として雇用して業務でやってほしい。

日本にはパトロンとして科学を支えるという伝統がありません。科学はほとんど国が支えてきました。芸術も同じ。これがお金持ちの寄付によって大きな発展を遂げてきている欧米との大きな違いです。そういう歴史があるだけ、寄付する側にも高い見識が育ってます。この辺の格差は、こういう学問を取り入れてからの歴史の浅さかもしれません。

企業が儲けたお金をどう使ってもそれは自由ですが、それで若者と、もしかしたらそのサイエンスでできたかもしれない可能性を奪うことになるのであれば、これはよろしくない。両方のプロジェクトも国から膨大な研究費がすでに支給されていて、さらに残りのことをやらせるのは、採用された若者がとても気の毒です。

2020年4月5日日曜日

反物質

311の頃、バナナ1本にどれだけ放射性カリウムが含まれるか、という話をよくしてました。飽きたのでそんなのを話すこともなくなりましたが、知らなかったのは、そのバナナの放射性カリウムK40から、バナナ一本につき75分に一つの割合で陽電子、反物質が出ているそうです。。

ごくありふれた日常の中に、物理の本でしかお目にかからないような現象、量子的効果や、時空の特性、などが、ぽろっとこぼれてくることがあります。こういうのがとても楽しい。バナナから出る反電子は、バナナを爆発させることもなく、負の電荷を持つ電子にぶつかって静かに消滅します。

この話はこちらの記事にあったものです。
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200331-00010000-wired-sctch&p=1

反物質がほんとに存在することは、なんと1932年、第二次大戦の前に見出されていたそうです。ただ、それを大量に得ることはできず、数が少ないと測定が難しいので、その性質を調べることは困難、なので、今まで報告されてなかったとか。

それには、反粒子を沢山集めて動かないようにすれば良いわけで、冷やせばいいだろうと。これは言うは易く、の典型で、超低温にして観察するのはアクロバット的な工夫が要ります。今回、上のNEWSに紹介されてるNatureに出た研究では、研究者たちは、CERNなどの機械を使って、絶対温度から0.5度高い極低温の数センチの空間をつくり、その中に500個くらいの反水素を長い時間トラップことに成功しました。そこでそのスペクトルを測ったという話です。

その結果では、反水素の特性は普通の水素と同じで、いわゆる標準理論に沿ったもので、有効数字12桁(!)という精度においても、両者に違いは見られなかったそうです。この世界では、電子は負に荷電してますが、なぜ陽に帯電した反電子がこの世ではほとんどないのかを説明する手がかりは得られなかったとのこと。

ちょっとがっかりですが、ただ、この方法では反物質を24時間もトラップできるそうなので、様々な性質について知る事ができるはず。理論では、反物質間では重力が逆転するという予測もあるとか。わくわくします。