2020年12月29日火曜日

カモスタットが新型コロナに有効だった報告2例

 まったくニュースにもならないですが、先に書いた、カモスタットが新型コロナのICUでの治療において有効だったという報告が2つ見つかりました。いずれも数は少ないですが。カモスタットは、飲み薬でウイルスの細胞への侵入を防ぎます。膵臓炎や逆流性食道炎の薬で長く使われており、安全性が高いものです。タンパク質分解酵素阻害薬です。

ひとつはドイツの名門、ゲッティンゲン大学のICUからのものでこちら

https://journals.lww.com/ccejournal/Fulltext/2020/11000/Camostat_Mesylate_May_Reduce_Severity_of.16.aspx

3月から5月の間にICUに来た新型コロナ患者11名に対して治療を行った結果です。対象はヒドロキシクロロキン(HQ)で、これは何の効果もないことがわかってるので、無処置に相当するとしています。実際に、HQで処理した群では8日間で、ほぼ変化ありません。臓器不全の指標で見た場合のデータがこちら。

左がカモスタットで、右がHQ。カモスタットは6人のデータですが、4人が大きく下がって改善しており、2名は増えていて悪くなってるようです。HQではほぼ5名いずれも8日後でも同じようです。このほか、全般的に炎症の数値を下げているといってます。ただこちらは幅が大きく、示されたデータではよくわかりませんが。

もう一つは韓国からの報告。
https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.12.10.20240689v1
ソウルメディカルセンターに8月1日から9月20日に新型コロナ陽性になった患者について、Foistar (カモスタット、7名)とカレトラ(11名)投与群の2つに分けて、その結果をまとめたものです。カレトラは当初は効果が期待されましたが、結局、臨床効果はないという判定になっているので、こちらが結果的に非投与群とみなしていいかと思います。
ここではCRPという、健康診断でも使われる炎症の指標を用いています。おおまかな重症度の目安です。入院前と7日後の結果がこちら。

わかりにくいのですが、下2行が、高かったCRPの数値が下がったか、上がったままか、の人数を示していて、Foistarでは7名中6名が正常値になり、カレトラでは20名中11名が正常値になり、7名は上がったままということです。nが少ないのですが、Foistarのほうが6/7で86%、カレトラは11/20で55%となり、Foistarが効いてるらしい、という結果です。

いずれも数がかなり少ないのですが、比較対象はしっかりできるので信頼おける感じはします。世界中で進められる治験ですがなかなか結果が出てこないのは、今となってはカモスタット単独となにも処理しない、という群を作ることが難しいからです。後者は倫理的に許されません。なので、このように結果的に効果がないとされた群との比較しかなく、なかなか数がとれないようです。

これらの結果からすると、カモスタットはものすごくよく効くわけでもないけど、理論的に効くはずだ、ということが実際の患者においてもある程度は確認できるように思います。ただ、この薬、理論的には早期に最も効果があるはずで、中等度以降の免疫暴走による症状には効果ないはず。本来は早期に比較試験が行われれば一番良いのですが、それは難しいのかな。日本では、臨床の現場ではカモスタットよりも点滴で使うナファモスタットのほうが使われてるようです。それはともかくとして、一般人に何ができるかと考えると、投与にある程度の注意が必要とはいえ、カモスタットでは副作用がほぼたいしたことがないことから、感染リスクの高い仕事で、熱が出てきたらとりあえず飲んどくというのはありかもしれません。
ただ、その結果、直ってしまって隔離されず感染を広げるということになりかねないのかどうか、は難しい問題です。