2020年2月29日土曜日

喫煙とCOVID-19

COVID-19もインフルと同じく、たいていの人は軽い症状で済むものの、重症化してしまうのが怖いところ。リスクが高いのは心肺関係に疾患を持った高齢者、あるいは糖尿病患者。それと、あまり日本の記事では見ませんが、喫煙することも高いリスクファクターと云われています。この点、はっきりとした証明はまだないですが、根拠となるのが、中国でのCOVID-19の結果。男性の方が高い死亡率を持ちます。

これはWorldometerという(ミススペルではなく、日本人としては嫌みかと思ってしまう名前ですが)統計的データのポータルのようなところで

のCOVID-19のサイトにある数値です。男性のほうが女性よりも1.65倍ほど死亡率が高い。男女差が出ることはどの疾患でもあるので、一概には言えませんが、男女で同じ感染率だとすると、男性の方が何か重症化するファクターがあり、これは、中国でのものすごく極端な男性と女性の喫煙率の差です。男性は54%もの高い喫煙率といまどきと驚く度高く、女性は2.6%とこちらは日本よりもずっと低い。たしかにこれだけ違うと、死亡率に影響を与えてもおかしくありません。

少なくとも喫煙すると肺に炎症を引き起こすので、喫煙者は慢性の肺疾患と似たような状態になっています。そこにウイルスが来るとさらに炎症は一気に広がりやすく、免疫の暴走がはじまって、呼吸が困難になってしまう、ということは十分考えられます。詳しい研究はちかいうちに出るでしょう。

今の時期にはさすがにヘビースモーカーでも控えておられるでしょうが、この点は、もっと周知されないといけない。

ところで、
サッカーを見れるのは、いつになることやら。埼玉スタジアムでのカップ戦決勝終了直前、キーパーも上がってきたコーナーキック、既に伝説となった深井が決める直前のシーンでも眺めていよう。

2020年2月28日金曜日

臨時休校

北海道での感染は止まりません。不思議なことに分布を見ると札幌は少なく、周辺の市町村で多く、しかも亡くなられる方を含め、重症者もおおい。もし雪祭りを訪れた中国人からの感染であるならば、少なくとも札幌市が格段に多くなるはず。旅慣れた中国人は有名どころを避けるとしても、ここまで北海道の隅々まで広がることはないだろうし。

今の時期、北海道では狭い室内で換気の悪い中、乾いた空気の中で一日を過ごします。これはウイルスにとって格好の増殖環境です。だけど、それはインフルエンザでも同じはずで、データがないけど、インフルではこのCOVID19のような感染分布は示さないように思います。

ひょっとして、足跡のないパウダースノーの上を滑るのがするのが好きな数人のスーパースプレッダーがいたとか?あまり、説得力ないですが。

北海道外の地域では感染源のはっきりしない新たな感染者数はそれほど増えてはいません。やはり気候の影響が大きいはず。暖かくなれば、とは思いますが、北海道ではGWの頃くらいになってようやく花が咲きます。本州より、1ヶ月は遅れて暖かくなります。長い長い冬。春を待ちわびる人々の気持ちは、今年は特に強いはずです。

それにしても、唐突な全国の小中高校の長期に及ぶ臨時休校指令には、いささか首をかしげるものがあります。地域によってそのリスクはかなり大きな差があり、確かに今、感染者が見つからなくても顕在している可能性はあります。だけど、それがその地域で今後広がるリスクは、地域で全然違う。

確かに熊本や福岡でも出てはいますが、それらはほぼ感染した中国人に直接か、間接的には運悪く遭遇したせいでしょう。そこからの広がりはなく、近隣県にこれから広がるとはちょっと考えにくい。四万十川の近くの小学校でCOVID19が広がるリスクがどれくらいある??

おそらく、先に出した大規模な催し物の中止依頼が比較的、好意的に受け入れられたので、これに踏み切ったのでしょうが、どうも不器用で、衝動的。政府がパニックになってどうするのだろう。311の時もそうでしたが、日本は危機管理がとても下手です。合理的で進んだ対策を次々に打ち出す韓国との差を感じます。

2020年2月25日火曜日

これはかつて見た

Jリーグの試合の中止。はじめて、村井チェアマン、えらいと思いました。各リーグの代表との話し合いでは結論を得られなかったとのこと。経営的な損失がものすごいので、こういうときは、トップが決定を下すしかありません。中止にして死ぬ人はいませんが、決行すると死者が出るかもしれない。

こういう事態に対して、たいしたことない、騒ぎすぎ、という声も聞きます。そういう声は、マスクはしないでがんばる森さんをはじめ、高齢の人が多い印象。一番被害が大きいのですが、それはおそらく、それまでの大部分の人生では災害と云っても想定内のことが多く、とくに前世紀の後半は比較的平和な時代が続いたからでしょう。

私も高齢なのでそういう気もします。だいたいなんとかなった、そんな時代でした。だけど、おそらくそれは地球の歴史の中では例外的に平和な時代。神戸、東日本大震災を皮切りに、まあ大丈夫さ、が通用しない時代、たぶんそれが普通なのです。そんなに地球という系は安定したものではないでしょう。

若い人は、生まれたときから大震災がいくつも続き、大規模な台風被害を目の当たりにして育ってきています。予想もしないことが普通に起きること、これが彼らの日常でしょう。

311の直後を思い出します。毎朝起きるとすぐに格納器の温度を見てました。機器の異常で急に上がったときは心臓が痛くなったものです。今はそれが感染者数に代わりました。増加数が毎日同じくらいなら大丈夫、そのうち減るはず、だけどもしそれが指数関数的に上がり出すと。。。
(追記、
https://hazard.yahoo.co.jp/article/20200207
にあるグラフです。国内のほうはどうも上がり方がよくない)
そうならないように検査数を絞ってるという話もありますが、重病者が出るとそうもいかないはず。

あまりにも政府、厚労省がなにもできないので業を煮やした専門者会議が声明をはっきりと出してくれて、これが効きました。これで、今まで声を潜めていた医療関係者もようやく言えるようになりました。かつて見た光景です。想定外の時代には、日本では政府や官僚は役に立ちません。自分らでできる事をやるしかありません。311のときと同じ。

万が一に備えて、うちのラボでもDNAを合成して、COVID-19のRT-PCR検査をできるようにしました。技術的にはいつもやってることで、学生でもできます。数十サンプルくらいは裁けるはずです。そうはならないことを願いますが。

追記
卒業式、入学式はともかく、サークルの追い出しコンパをどうするか、相談が来ます。答えはわかっていても、やはり聞いて皆を納得させないといけない、ハプトさんの辛さを想い、こちらも辛くなります。

2020年2月22日土曜日

気をつけねば

COVID-19が武漢のP4施設から流出したウイルスの可能性があるという、いかにもありがちな話がでてます。よく出る話ですが、その中で、ウイルス専門家が、ウイルスの中のスパイク蛋白の中には遺伝子組み換えに使うpShuttle-SNベクターの配列が含まれている、と述べたという記事がありました。
https://www.epochtimes.jp/p/2020/02/51700.html

そもそも、そんなのは配列を見ればすぐわかることです。COVID19の全ゲノム配列は
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/1798174254
にあります。スパイク蛋白は
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/NC_045512.2?report=genbank&from=21563&to=25384

です。pShuttle-SNは
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/57791694

にあります。これはSarsウイルスのスパイクの変異体を含むもので、ラットにアデノウイルスを使って感染させるのに使ったようです。こんなことやってたんだというのはさておき。

相同性を調べてみました。蛋白レベルでコウモリのコロナウイルスとの比較

そっくり。やはりこうもり由来だ。先の記事がいってる相同性がなく不思議だといってる配列はこの最下段の5アミノ酸の挿入のこと?他に数アミノ酸の範囲で変異してますが、これくらいは普通。

また、アミノ酸をコードするRNAのコドンをいじった跡があるとありますが、これは自然変異の際によく見られること。アミノ酸は変えない方が生存する確率が増えるからこうなります。

COVID19のスパイク蛋白の配列にはpShuttle-SNの痕跡らしきものを調べても(もちろんこのベクターはSarsウイルスのスパイクをコードするので、スパイク蛋白同士の相同性はありますが)、組み替え生物由来なら連続した塩基配列の断片があるはずだけど、それも見当たらず。COVID19のほかの遺伝子配列と比較しても「痕跡」は見つからず。

一体この記事は何を言ってるのだろう??そもそも、この記事、ちゃんと読むとかなり理解不能です。記者がわかってないことを書くとそうなることはよくあるので、最初はできの悪い学生の答案のような読み方でキーワードだけ拾ってストーリーをつくって読んでましたが、まともに読むとかなりおかしい。この記事の中で唯一判読できる内容は上のpSuttle-SNとの相同性がCOVIDのスパイクと似たところがあるという事で、だけどこれはない。

なんだこれとこのサイトをよく見ると、大紀元時報、真実と伝統。。。なんだこれは。こういう時期、いろんな怪しげなところからもっともらしいのが出てきます。気をつけねば。

それはともかく、この新型コロナのスパイク蛋白のクライオEMでの構造の論文がでてましたが、これから予測するとウイルスが結合する、細胞表面にあるangiotensin converting enzyme2への親和性がsarsと比べると一桁高いとか。肺炎になったときの症状が重く、回復しにくいのはこのせいかもしれない。

追記
日本で最大の学会のひとつ、日本薬学会が3月の終わりの年会を中止することになりました。他にもいくつも中止するところが出てきています。薬学会の場合、大学関係者だけでなく、特に薬剤師、製薬会社関係が全国から参加するので、リスクが高いという判断でした。311の震災に次いで、10年もしないうちに2回目の中止となりました。

2020年2月20日木曜日

社会実験

COVID-2019に感染してクルーズ船の乗客2名がなくなりました。初春の海を楽しみに出かけたのでしょうに・・・ その海が美しかったことを願うばかりです。

症状が出てない2000人超は下船して自宅に戻られることになりました。これは社会実験のようなものです。前例のない事態なので、今回の結果、そのまま感染が終了すれば、この処置が適切だったことになります。もし蔓延したら、この対策はダメだったということになります。

そうなった場合には下船した乗客が責められるかもしれず、また別の苦しみが生まれるかもしれません。仮に蔓延したとしてもそれで責任を感じることはありません。これは、その方法をとった政府の選択の結果です。ただ、ほかにどのような対応が可能だったか。今後、多くの研究が生まれるでしょう。次はもっといい方法が取れるはず。

おそらく、現在症状が出ていない下船した人は、仮に感染していたとしてもウイルスを周囲に蒔く確率はそれほど高くないはず。最悪でも家族に感染がでるかどうか。現に、交通機関の中での感染はほとんど起きてない、つまりそれ以上は広がらないだろう、という判断でしょう。

その反面、長時間、近くにいると高い確率で感染することもはっきりしています。一人発症者がいれば、大抵、周りには感染者は出てます。つまり、新型コロナでもやはりこれはインフルエンザとほぼ同じ。COVIDでは治療薬はないですが、少し前まではインフルエンザも薬はありませんでした。ときにはひどい大感染を引き起こしながら、我々は何とかしのいで、この文明を進めてきました。

それにしても、クルーズ船の場合、基本的にリスクがあまりに高い。感染症に限らず、緊急時にあれだけの人数に対処することはできません。造船業も観光地もそこに活路を見出さざるをえない社会の構造があるのはやむをえないにしても、人はなぜに乗ってしまうのか。おそらくあれだけの大人数なので、逆にそれが安堵感を生んでるということかと思います。これもある種のバイアス。

中国では、死者の数は相変わらず直線的に増えてますが、感染者数は昨日の段階で大幅に減りました。強烈な隔離圧力はさすがに有効なようです(追記、数え方を元に戻しただけでしたが、それにしても大分減ってます)。それを行わなかった(行えないと思いますが)日本ではどうか。息をひそめて見守るしかありません。1ヶ月後に、答えはわかります。

ただ、韓国での教会での集団感染を受けて、中国以外でも、大規模な隔離が必要になりそうな気配です。ものすごい数の感染者数になるようで、スーパースプレッダーでしょうか。感染はしても重症にならなければいいわけで、全員が早く回復するよう願っています。早い時期での抗ウイルス薬の大量投与が有効かもしれません。

2020年2月16日日曜日

浅川マキと山下洋輔トリオ

高校の頃、ジャズが好きな友達がいて、よく一緒にジャズ喫茶でつるんでました。ミッション系の割と自由な高校で、可能な限り、合法的に授業を抜け出して、というのが可能な時代でした。ただ、我々があまりにも制度を活用して謳歌したもので、次の学年からはそれが改訂されて進学校のように厳しくなったようで、後輩からは恨まれました。

通っていたのは、コンボ。天神のごちゃごちゃしたビルの2階のとっても狭い、細長いお店。小さくても、ここは福岡のジャズのメッカでした。友達はものすごくジャズに詳しい男で、フリージャズにいたる系譜は彼からしっかりたたき込まれました。

彼は他の音楽はほとんど聞いてなかったと思いますが、ある日、これ、いいよ、と持ってきたLPがありました。その頃よく聞いていた当時の日本のフリージャズを代表していた山下洋輔と森山威男、坂田明らが、シンガーソングライターとして独自の活動をしていた浅川マキと共演したアルバム。その最後の曲は彼らの敬愛するコルトレーン・カルテットのリズムで演奏され、坂田明の吹くアルトが、すごい。

たしかに、これはいいよね、と何度も聞いてました。だけどそのうち受験になり、大学も別になって、1年の夏にあったのが最後でした。だけど、この曲は、そのリズムと坂田明のサックスはいつまでも頭の中で響いていました。

時が経ち、この曲を聴きたいと思っても、アルバムも曲名も覚えてません。だけど、浅川マキと山下洋輔トリオらとの演奏なので、わからないはずもないだろうとさがしたものの、らしいものが見つからず。キーワードとして使ったのが、round-go-round, という印象的なリフレインでした。なんだろう、round go aroundか round go downなとか思ってもみましたが。らしいものはなく。

さらに月日が経ち、昨夜、ふと、すごくこれが聞きたくなって確実な山下洋輔と森山威男、坂田明と浅川マキというキーワードで検索すると、らしいのは3枚しかありません。聞いたのは普通に流通していたLPで海賊版ではなかったので。どうも記憶にある他の曲からするとこれはMAKI VIというもののはず。とすると、最後の曲は、ボロと古鉄、しかない。

今の時代、YouTubeです。この曲、でてました。

https://www.youtube.com/watch?v=YjrZxdeJ2JY

なんと、これです。ほぼ半世紀、探してた曲。しかし、これのどこがround go aroundなのか。rags and old ironを聞き間違ってました。。。だけどこれを何度聞いてもこの単語になりません。確かに、最後のdは頭の中でつけてるだけで、実際には聞こえてなく、この単語にして聞いてるところが問題。オリジナルのニーナ・シモンをきいてもやはり同じように聞こえます。ironを正しく聞いてないのですね。

あの頃の空気が、この曲で一気によみがえってきました。今聞いても、この曲はとても素晴らしい。このシンバルが常時打ち鳴らされ、揺れるようなリズム、かつてエルビン・ジョーンズ、マッコイ・タイナー、ジミー・ギャリスンとコルトレーンが創り上げたスタイルに浅川マキがとってもはまっています。そして、坂田明のソロ。まさに絶唱です。あの時代が作り出した、奇跡のような音楽です。そして半世紀にわたる勘違い。。。


追記
そうか、oldのdとironがくっついて[da~n]となり、ragsのgと次のoがつながったので、go downと聞こえるわけか。今度、nativeに聞かせてみよう。

2020年2月11日火曜日

蛇腹を修理したという話

ちょっと前の話。掃除機や布団乾燥機などでよく壊れるのがホースの蛇腹の部分。蛇腹になっている部分がどうしてもよく曲げる箇所で裂けてきます。この時期、布団乾燥機でお布団を暖めるのは、必須なので使えないと辛い。そこで、ビニールテープをぐるぐる巻いてしばらく使ってましたが、破れてる箇所が多く、空気が漏れるのであまりに効率悪い。

このホースのためだけに本体を買い直すのはバカらしいしとネットを探し回りましたが、裂け目をあきらめて切り離してつなぎ替えろとか、こうやったけどダメだった、とかろくな情報なく、自分で考えろと。接着剤は第一選択肢ですが、布団乾燥機はそれなりに高温がかかるし力も加わりそもそものりしろの部分もないので、普通のではダメそう。

そこで文房具引き出しを覗いたところ、
J-Bウエルド オートウェルド 超強力接着剤 AW-20Z
というのを発見。ラボのなにかが壊れたので、アマゾンで買って使ったけどあまりうまくいかず、確か他ので直した記憶があります。能書きによると、コンクリートなどの接着補習、漏れ留め、隙間充填に使え、300℃までの耐熱で、溶接並みの強力接着剤とか。基本は2剤タイプのエポキシ系接着剤です。

これにはミクロ鉄粉が入っていて黒くなるのが難点だけどそのかわり強力そう。そこでものは試しと、これを蛇腹の裂けた部分一箇所に盛りあげてテープで固定して一晩放置。翌日、みると盛った部分ががっちり固くなり蛇腹の素材と一体化。これはすごい。そこで残りの部分も同じように補填。これを念のために、テサテープ tesa4600CL-3 という自己融着テープを使ってぐるぐる巻いて完成。これはテープ同士で融着するのでぐるぐる巻くとぴったり張り付いてくれます。

これから2ヶ月ほど毎日使ってますが何の問題もなく、裂け目はほぼ完璧に補習された模様。数センチにわたる裂け目が何列もあり、切り離した方が早いかもというレベルでしたが、なんなくつながりました。難点は黒いので見栄えは悪いことですが、そこはテサテープでごまかして、なによりもおそらく鉄のおかげで蛇腹の素材と同じくらいの強度は得られたかな。能書きに嘘はありません。

J-Bウェルドはアメリカに昔からある接着剤のようです。DIYの盛んなアメリカならでは。自分の家の壊れたパイプを、週末にこれで修理してる姿が目に浮かびます。

2020年2月9日日曜日

2度目の騎士団長殺し

数年ぶりに「騎士団長殺し」を読了。出版されてすぐに読んだので、随分前のように思ってましたが、調べると2017年のことでした。これをきっかけにして、村上春樹の小説を再び読み出す、というよりは、ようやくまともな読み方が(たぶん)できるようになりました。

とても優れた、いかにも彼らしい物語の面白さに満ちた小説です。小説は夜寝る前にしか読めませんが、そのひとときが暖かで待ち遠しいものになりました。最初読んだときは、予想外の展開に読む速さが変わって先を急いだところもあり、読み落としたことも結構ある事に、今回、気がつきました。

やはりこの小説の魅力は、妙な話し方をする騎士団長です。イデア、でありながら、なかなかヒトの生臭さをわかってらっしゃる、この小さな狂言回しは、村上春樹の天賦の才の証で、読んでる期間は仕事中でもふっとそんな雰囲気を思い浮かべたりしていました。

だけどこの小説、初回読んだときも思いましたが、彼が殺されて舞台から消えてからは途端に魅力が落ちます。まりこも、それまでは意味深な人物だった免色氏も、なんだか類型的になり色あせて、片付けに入るような気配すら感じます。

たぶん、これは311なのかな。時間的に合うのかどうかわかりませんが、なんとなく、この小説の中で唐突に出てくる311の話、彼らしからぬ不自然さがあります。震災で物語作りは中断し集中をややそがれてしまった、そんな感もします。

また、彼一流のとても美しい表現があまり見られないことも残念。1Q84の終章、児童公園で天吾の前に再び現れて手をそっと握った青豆とながめる青い月、そんな詩情とはちょっと違う。これは物語の必然性もあるのでしょう。

とはいっても、この本は、物語を読むことがどれほど人生を豊かにしてくれるかを改めて教えてくれる貴重な一冊です。次に読むのも村上春樹にしたいのだけどそれはもったいないかな。彼のことを知らない人生はきっと寂しいに違いない。