数年ぶりに「騎士団長殺し」を読了。出版されてすぐに読んだので、随分前のように思ってましたが、調べると2017年のことでした。これをきっかけにして、村上春樹の小説を再び読み出す、というよりは、ようやくまともな読み方が(たぶん)できるようになりました。
とても優れた、いかにも彼らしい物語の面白さに満ちた小説です。小説は夜寝る前にしか読めませんが、そのひとときが暖かで待ち遠しいものになりました。最初読んだときは、予想外の展開に読む速さが変わって先を急いだところもあり、読み落としたことも結構ある事に、今回、気がつきました。
やはりこの小説の魅力は、妙な話し方をする騎士団長です。イデア、でありながら、なかなかヒトの生臭さをわかってらっしゃる、この小さな狂言回しは、村上春樹の天賦の才の証で、読んでる期間は仕事中でもふっとそんな雰囲気を思い浮かべたりしていました。
だけどこの小説、初回読んだときも思いましたが、彼が殺されて舞台から消えてからは途端に魅力が落ちます。まりこも、それまでは意味深な人物だった免色氏も、なんだか類型的になり色あせて、片付けに入るような気配すら感じます。
たぶん、これは311なのかな。時間的に合うのかどうかわかりませんが、なんとなく、この小説の中で唐突に出てくる311の話、彼らしからぬ不自然さがあります。震災で物語作りは中断し集中をややそがれてしまった、そんな感もします。
また、彼一流のとても美しい表現があまり見られないことも残念。1Q84の終章、児童公園で天吾の前に再び現れて手をそっと握った青豆とながめる青い月、そんな詩情とはちょっと違う。これは物語の必然性もあるのでしょう。
とはいっても、この本は、物語を読むことがどれほど人生を豊かにしてくれるかを改めて教えてくれる貴重な一冊です。次に読むのも村上春樹にしたいのだけどそれはもったいないかな。彼のことを知らない人生はきっと寂しいに違いない。