2020年3月11日水曜日

ファミリー・ライフ

この何とも読む気を失せさせるようなタイトルの小説は、インド出身のアメリカ在住作家アキール・シャルマの、自らが世に出るまでのことを描いた物語です。インドからアメリカに来て、劣等感にさいなまれながらも、一家のスターであった兄が事故に遭ってほぼ植物状態になり、その介護の日々がこの小説の中心になります。

その重苦しい日常の中で、ほとんど読んだこともなかった小説の世界に、ヘミングウェイをひたすら読み込むことで入っていく「僕」。あまり読むつもりもなく、ページをめくっていたら、いつのまにか終わってました。あんまりうまくないなあ、と思いつつも、なにか読み進めさせるものはありました。切実さ、でしょうか。

なんだかぎこちないので、小説も書いたことのない人が自分の過去を振り返って書いた本かと持ったら、いくつも賞を受けた作家がはじめて自分の家族と生い立ちを苦労して書いた物語でした。ただ、そういわれれば、それもまたわかる気もします。書くのが辛いことを時間をかけているので、どうしても言葉は撥ねず、のがれられないものがあるのかもしれません。

だけど、これは、読むべき小説なのです。決して読みにくいものではなく、表現も平易でストーリーも平坦で、難しいところもないし。惜しむらくは、最後の、大学を出てからが、なぜにあんなに駆け足で書いてあるのかわかりません。そこを除けば、優れた作品です。

いろんな意味で、記憶に残る作品となりました。いかにも新潮社のクレストブックシリーズらしい一品です。学校は休校にはなるし、引きこもりが推奨される中、とくに若者は暇をもてあましていますが、今こそ、本を読むチャンス。こういうときの過ごし方で人生変わるかもしれません。