2020年12月31日木曜日

fc2に移ります

 あまりにこのグーグルブロガーが使いにくくなったので、あきらめてFC2に移ります。こちらです。

https://janushons.fc2.net/


2020年12月29日火曜日

緑内障にニコチンアミドが有効

 前にも書いた、緑内障にニコチンアミドが有効か、という話、ずっと行っていたオーストラリアのメルボルンにあるCentre for Eye Research Australiaでの臨床試験の短期間の結果が夏に出ていました。

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/ceo.13818

ニュースはこちら。

https://medicalxpress.com/news/2020-07-vitamin-b3-glaucoma-patients-clinical.html

49名の緑内障患者を2つに分けて、6週間のセットを4回、偽薬かニコチンアミド、入れ替えて投与し、各セットの後で診察して数値を取ってます。I群では偽薬を2セット続けて、その後、ニコチンアミドを0.5g錠剤を一日三回、計1.5gを6週間、ついで1.5g錠剤を朝晩に飲む3gのセットを6週間行いました。これで、同じ人で、ニコチンアミドが偽薬よりも有効だったかを知る事ができます。

評価に使った数値は光に対する網膜の応答で、少々、専門的ですが、どれくらい見えてるかの定量化になるのかな。


 AとBでは異なる網膜の活動を示していて、最初のニコチンアミド1.5g/dayよりも次の6週の3g/dayのほうがより高い数値を示してます。CDはまとめで、1.5g/dayと3g/dayをそれぞれ6週間投与すると平均12.6%の改善が見られています。視野については、ニコチンアミド投与された27%の人が改善され、これは偽薬では4%の低下だったとのこと。

これは眼圧とは関係がなく、ニコチンアミド投与しても眼圧は変わらなかったそうです。つまり、他のところで効いていて、たぶん網膜神経節細胞での代謝の変化だろうと考えてます。他に言いようがないでしょうが。

これは12週という短い時間での検討なので、もっと長い時間でどうかというのは、現在進行中だそうです。量については、3Gというのは経験的なものといってて、長期的にはまた変わってくるかもしれませんが、ニコチンアミドはこの研究でもほとんど副作用が出てないので、緑内障で使わない手はないのかもしれません。ただ、長期的に使うと悪くなるという可能性も0ではないので、やはり、待てる人は待ったほうが良いでしょうか。ともかく、緑内障の有力な治療となりそうな感じはします。

カモスタットが新型コロナに有効だった報告2例

 まったくニュースにもならないですが、先に書いた、カモスタットが新型コロナのICUでの治療において有効だったという報告が2つ見つかりました。いずれも数は少ないですが。カモスタットは、飲み薬でウイルスの細胞への侵入を防ぎます。膵臓炎や逆流性食道炎の薬で長く使われており、安全性が高いものです。タンパク質分解酵素阻害薬です。

ひとつはドイツの名門、ゲッティンゲン大学のICUからのものでこちら

https://journals.lww.com/ccejournal/Fulltext/2020/11000/Camostat_Mesylate_May_Reduce_Severity_of.16.aspx

3月から5月の間にICUに来た新型コロナ患者11名に対して治療を行った結果です。対象はヒドロキシクロロキン(HQ)で、これは何の効果もないことがわかってるので、無処置に相当するとしています。実際に、HQで処理した群では8日間で、ほぼ変化ありません。臓器不全の指標で見た場合のデータがこちら。

左がカモスタットで、右がHQ。カモスタットは6人のデータですが、4人が大きく下がって改善しており、2名は増えていて悪くなってるようです。HQではほぼ5名いずれも8日後でも同じようです。このほか、全般的に炎症の数値を下げているといってます。ただこちらは幅が大きく、示されたデータではよくわかりませんが。

もう一つは韓国からの報告。
https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.12.10.20240689v1
ソウルメディカルセンターに8月1日から9月20日に新型コロナ陽性になった患者について、Foistar (カモスタット、7名)とカレトラ(11名)投与群の2つに分けて、その結果をまとめたものです。カレトラは当初は効果が期待されましたが、結局、臨床効果はないという判定になっているので、こちらが結果的に非投与群とみなしていいかと思います。
ここではCRPという、健康診断でも使われる炎症の指標を用いています。おおまかな重症度の目安です。入院前と7日後の結果がこちら。

わかりにくいのですが、下2行が、高かったCRPの数値が下がったか、上がったままか、の人数を示していて、Foistarでは7名中6名が正常値になり、カレトラでは20名中11名が正常値になり、7名は上がったままということです。nが少ないのですが、Foistarのほうが6/7で86%、カレトラは11/20で55%となり、Foistarが効いてるらしい、という結果です。

いずれも数がかなり少ないのですが、比較対象はしっかりできるので信頼おける感じはします。世界中で進められる治験ですがなかなか結果が出てこないのは、今となってはカモスタット単独となにも処理しない、という群を作ることが難しいからです。後者は倫理的に許されません。なので、このように結果的に効果がないとされた群との比較しかなく、なかなか数がとれないようです。

これらの結果からすると、カモスタットはものすごくよく効くわけでもないけど、理論的に効くはずだ、ということが実際の患者においてもある程度は確認できるように思います。ただ、この薬、理論的には早期に最も効果があるはずで、中等度以降の免疫暴走による症状には効果ないはず。本来は早期に比較試験が行われれば一番良いのですが、それは難しいのかな。日本では、臨床の現場ではカモスタットよりも点滴で使うナファモスタットのほうが使われてるようです。それはともかくとして、一般人に何ができるかと考えると、投与にある程度の注意が必要とはいえ、カモスタットでは副作用がほぼたいしたことがないことから、感染リスクの高い仕事で、熱が出てきたらとりあえず飲んどくというのはありかもしれません。
ただ、その結果、直ってしまって隔離されず感染を広げるということになりかねないのかどうか、は難しい問題です。

2020年12月22日火曜日

新型コロナのスパイク蛋白の変異N501Y 追記

 英国でも猛威を振るっている新型コロナで新たにスパイク蛋白S1のN501Yの変異が見つかり、これが感染拡大と相関があるらしいと緊張が走っています。英国からの移動制限がEU等各国ではじまりました。

COVID19ウイルスもほかのRNAウイルスと同じで変異は絶えず発生してます、凶悪なものに変化することも希にあるでしょうが、ほとんどの変異は何にも変化なく、どちらかというと、消えたり、弱毒化する方向に向かいます。先に報告されたスパイク蛋白D614Gの変異では重症化は起こさないものの感染力が増すことが示されました。実験的に証明されたわけではないですが、このN501Yも細胞への結合を増して感染力の増強に関わるのかもしれません。

このS1蛋白は新型コロナが引き起こす妙な症状と関係するのかもしれません。S1がウイルスから剥がれて体内を回ることは知られていますが、これが血液脳関門もなぜか通過することがマウスの実験で報告され、海馬や嗅覚に入って炎症を起こすことが示されました。こちら。

https://www.nature.com/articles/s41593-020-00771-8

脳だけでなく、腎臓、肝臓にも影響するようなのでやっかいです。今回の変異がこのような作用を増強しないことを願うばかりです。おそらくこのウイルスの高い致死率はこういうウイルス蛋白自体の毒性も関係してるのでしょう。

米国退役軍人のデータでは、新型コロナはインフルエンザの5倍くらい致死率が高いことが報告されました。こちらが原報

https://www.bmj.com/content/371/bmj.m4677

ニュースはこれ

https://www.eurekalert.org/pub_releases/2020-12/wuis-cpa121520.php

ところで、先に書いた、オーストリアで鼻吸入型が感染予防の治験になってるカラギナンは、結局、以下のような組成で作って、喉スプレーにしてます。カラギナンは、湯煎で溶かす必要がありますが、それさえやればさくっと溶けます。お菓子作りと同じ。安全性の高いプロピオン酸ナトリウムを雑菌増殖防止に使い、ただ、これだけでは何の味もなくてまずいので、楽天で買ったミントの結晶をざくっと入れました。結晶はほとんど溶けないので、スプレー容器に残ってます。ミント、メントールにも抗菌作用があり、もともと炎症を抑えるものとして古来から使われてきたものですが、何よりも味が格段によくなりました。

イオタ-カラギナン 0.2 g/100 mL 

プロピオン酸ナトリウム 0.5 g/100 mL 

ミント結晶(適当)

あまり大量に入れておかないで、残りは冷凍して、雑菌が増えないようにしてます。滅菌などしてないので、ほんとにこの組成で雑菌が増えないか菌を入れて試してみたところ、大腸菌はほぼ増えず、持ち歩いてもいいかな。ただ、これがほんとに新型コロナの予防になるのかはわかりませんが、炎症を抑える作用はあるはず。前線での防御は大事です。誰か、これいる?

追記

このN501Yの変異は特に新しいものではなく、9月から報告されてました。ほんとに感染力が高まってるのかは、どこにもデータがなく、ジョンソンさんがいってるだけ、ということもないでしょうが、何ともわかりません。その割に世界中に規制が強化されて、日本でも英国からの入国が制限されるようになったようですが。

さらに追記

インフルエンザの5倍の致死率というのを間違って5%にしてしまってました。ひどい間違いです。ごめんなさい。5%ならいいのだけど。ところで、4月に有効ではないかという報道のあった吸入剤オルベスコ、残念ながら臨床試験の結果、新型コロナには効果ないそうです。

https://www.jiji.com/jc/article?k=2020122300862&g=soc

がっかり。折角入手しておいたのに。ただ、どうも効かないらしいというのは、うちの呼吸器の医師もいってましたが、やっぱり。この試験は数が少ないのですが、少なくともあんまり効くものではないことはわかります。

もっと追記

この変異が急速に拡大し、日本にも入ってきてるということがあきらかになり、新規入国禁止措置がとりあえず1月末まで急遽取られることになりました。極めて深刻な事態です。英国では新規感染の6割がこのN501Yだそうで、これがロックダウンしている英国での急増の要因でしょうか。この数値からすると、これを止めるのは相当難しい。各国において再び外出禁止するありません。それにしても、こんな中で、飲み会開いてる人間がいる事が信じられない。まったくひどい正常性バイアス。学ばない人間はいつでもいて、感染は彼らの無知が拍車をかけます。

もっともっと追記

スパイク蛋白のN501Yの変異とはいっても、この変異体には他にも変異が沢山含まれていて、69-70の欠失、144の欠失、N501Y、A570D、P681H、T716I、S982A、D1118H を持つものが、問題視されているそうです。N501Yだけならば、既に出てたので、なぜ今頃と思ってましたが。

2020年12月19日土曜日

本命登場

 塩野義が新型コロナの蛋白を用いたワクチンの1/2相試験を開始しました。蛋白生産は時間がかかるので、これは仕方ありません。十分早いと思います。米国ではノバドックス社がすでに3相試験は英国で行われていて、塩野義の先にいってますが、自分の国では、なぜか製造体制の確立に時間がかかっているとかで、これから3相試験の申請だそうです。英国の方で先に結果が公表されるようです。

蛋白をワクチンとして用いるための技術は、これまで十分に長い時間をかけて検証され、安全性について確立しています。ワクチンなので、一定の副作用は必ず起こりますが、長期的な副作用はないはずで、抗体がちゃんとできて長く作用する事が確認さえできれば、安心して打てます。但し、普通は数年かけて試験を行います。ただ、蛋白ワクチンの副作用はほぼ急性で、長期的な、たとえばガンになるリスクの増加などは、まず考えられないので、3相の試験までやれば、だいたいはOKなはず。

塩野義はこれから試験を1年くらいかけて行います。来年末には使えるようになるのではと期待されます。ノバドックス社のが日本で使えるのか、わかりません。政府は買ってないのじゃないかな。

こういうのができてきてるので、そろそろRNAワクチンは却下してもいいのではという気もします。この数ヶ月間のラグを待てるかどうか。既に、どの戦争よりも被害者が多くなっている悲惨な米国の情況では、待てないとは思います。RNA自体、リポソームを用いる技術、いずれも、不確定の要素が多いのが心配です。とはいっても、それほどひどい副作用はおきないのではないかとは思いますが。感染リスクとどちらが高いのか、慎重な、難しい判断が必要となります。ともかく私は来年末まで塩野義(か他社の蛋白ワクチン)のを待つつもりです。

2020年12月12日土曜日

何をいっても無駄だと

何をいっても無駄だというあきらめ、そんな無力感、最初からのあきらめ。これが特に日本の若い人たちの間で広がってるような感じがします。子供でもわかるような明らかな矛盾があるのに、都合の悪いことは認めない、一般人はできなくても、それができる権限があるならば、堂々とやってしまう、それを恥ずかしいと思うことすらない、そんな政権をもつ社会にこれから出て行こうという若者に、希望を持てといわれても持てるわけもありません。

新型コロナの対応をめぐる政府のやり方を見ていると、特にこれを感じます。沈着冷静で知られるドイツのメルケル首相が、あれだけ強い言葉で大きな身振り手振りで全身で感情を込めて国民に年末の過ごし方を訴えかけているのに、この国では総理大臣が、ニコ動で、これから検討するところです、と知り合いの報道関係者にこやかに答えることしかしない。トップに立つべき人と、そうすべきでない人の違いがあまりに鮮明でした。もしかするとドイツの若者はメルケルさんのようにはなりたいと思っても、日本の若者は総理大臣ですらあれくらいしかなれない、と思ってしまうでしょう。トップは大事なのです。なってみないとわからないということもあります。

新型コロナの診療に関わる医師に聞くと、この病気は、これまでの診療の常識が通用せず恐ろしい、といいます。肺炎が治まりそろそろ退院かと思ってレントゲン撮ると肺がまた白くなってる、ひょっとしてどこかでミスったのではないかと青くなってカルテを見直すことも珍しくないとか。軽症だったのにいきなり亡くなってしまう例も珍しくありません。医師だけでなく、転職の自由の効く看護師が辞めていくのを責めることはできません。

新型コロナにかかった場合、本来の担当は呼吸器内科です。だけど呼吸器内科は大抵は人数が少ない科で、呼吸器内科の医師がいない病院も大きな市町村であってもよくあります。福島だといわき市とか。ただ、この病気では呼吸器内科医が診てもできることは大体決まっているので、各病院にプロトコールを送り、救急など各科でそれに沿って緊急対応しています。ほかの病気ではこんなことはありません。極めて異常な事態です。医師は、ベテランであるほど専門外のことをさせられていることに大きなストレスを感じています。

大災害になってる大阪。医療機関にコロナ対応にしてくれとお金を積んでます。これまで大阪では医療従事者の育成は軒並み削減していて、代わりに政治ゲームにうつつを抜かし、この時期に住民投票に膨大な費用と人力をつぎ込み、結果、自分たちの好きなようにはならなかったら、政治ができたことに満足した、というコメントを残しました。そんな為政者のいうことに医療機関が本気で従うわけもありません。ただその政治家は住民が選んだわけで、現在の医療危機、既に失われてしまった多くの人の命は自らの選択ではあります。

政府は、自分たちの支持基盤が観光業、飲食店業界なので、GO TOを取り下げないことに不思議はありません。それより恐ろしいのは、そう上からいわれればどんな情況でも政府のいう事に素直に従って、脳天気に観光地をめぐり忘年会をする国民の方です。確かに、いつの時代でも国はいつでもそういう何も考えない国民を育てようとしてきました。日本学術会議会員で政府に反対した委員には新任を拒否したのはそのわかりやすい例。だけど、多くの先生たちはそんな中でも、いつの時代でも、学生には自ら考え、判断して行動するようにと教育してきたはず。戦争もこうやってはじまったのかと、うすら寒い思いがします。

2020年12月4日金曜日

RNAワクチンの副作用に世界はどう耐えるか

 英国を皮切りに、EU諸国ではファイザー社のRNAワクチンをまず医療従事者に投与されることになりました。フランスやオランダ、デンマークでは1月からとか。個人的にはこのワクチンは勘弁して、とは思いますが、やむをえない措置とは思います。欧米での多くの医療従事者の場合、リスクがあまりに高く、ワクチン接種によるデメリットよりも遙かに大きいのは明白です。

ただ、この接種がはじまると、抑えるという結果が明らかになるのは来年夏以降で、それまでは、おそらく副作用のみがマスコミを賑わすことになりそうです。どんなワクチンでもある程度の副作用はあります。どこまでが許容範囲か。

このRNAワクチン、BNT162b2、はCOVID-19スパイク蛋白をコードするmRNAを修飾して、LNP、リン脂質ナノ顆粒の中に封じ込めたものです。このLNPは薬物投与の新たな手法で、RNAのような不安定な(というよりは分解されやすい)ものに最適。RNA自体が、生体のものとはちょっと違うものに置き換えられていて、分解されにくくしているようです。おそらくファイザーのBNT162b2とモデルナの1273の違いは、顆粒の表面の処理、あるいはRNAの修飾の方法か配列の差によるのでしょう。

ワクチンが効いてる、という結果がでる夏くらいまで、短期的な副作用ばかりが出てくるので、ワクチンを受けないほうがいい、という風潮が出てきそうな気がします。私はあんまりリスクが高いとは思えないので当面は受けるつもりはないですが、リスクの高い人は受けたほうが良い。ずるいかもしれませんが、これは一人一人で判断するしかないところ。いまでも喫煙する人も大勢いますが、長期的な副作用は明白でかなり深刻でも、本人にはメリットがあるという判断でタバコ吸ってるわけで、このようなことはタバコほど重篤な被害でなくても、アルコールや、あるいはジャンクフードなど多くあります。自分で決めるしかない。

開発されてるワクチンの中では、従来の蛋白由来のもの以外ではこのRNAタイプが一番安全性が高く、深刻な副作用はおきにくいはずです。RNAをLNPを用いて投与するなんていうのは人類史上初の試みなので、想定外のことが長期的には起きる可能性もありますが、短期的には、普通のワクチンの副作用と同じくらいだろうというのがこれまでの小規模での結果のようです。来年中には短期的な副作用についてリスクの高い人を中心として大量の情報が集まるでしょう。一般に広がるのはそれからと思います。

ワクチンはともかくとして、簡単で安全な治療薬の開発を願います。なかなか治験の結果が出ないのは、今では効くのは全部投与してるので、特定の薬剤が効いたかどうかの判断がつかなくなってるから、と、呼吸器内科の先生がいってました。誰でも、人類のためよりは、自分だけは万全を期して治してもらいたいものです。

とはいっても、数が沢山集まれば、解析によって答えは出てくるでしょう。この前書いたカラギナンや、カモスタット等で細胞への侵入を防ぎ、症状が出てきたら、デキサメサゾンで症状のほうを抑える、という方法で、何とかしのぎたいところです。そういえば、よく似たオルベスコは、ちっとも効かん、と彼はぼやいてました。折角、オルベスコはウイルスの増殖を抑えるということもわかってたのに、がっかり。ま、タイミングかもしれませんが。

追記 2021/08/29

来年、つまり21年中にデータが出てそれから一般に広まるだろうと書きましたが、さらに加速されて夏までにはほぼ半数の国民がワクチンを受けるまでに広まりました。現実は想定を越えて進んでいます。デルタ株のような強力なのがこれから1年で蔓延するとは思いませんでしたが。その中で、モデルナのほうの副作用、異物混入が問題になってきています。この件については、次のブログの方に書きました。https://janushons.fc2.net/blog-entry-55.html 段々わかってきているような感じはします。

2020年11月24日火曜日

カラギナンで新型コロナ予防という臨床試験

カラギナンというゼラチンのような作用のある海草抽出物、多糖類が新型コロナに対する予防効果があるかを調べる第IV相の試験が医療従事者を対象にオーストリアで行われるというニュースが出てました。これはオーストリア・ドイツ圏ではすでに鼻スプレー、喉スプレー、トローチとして売られているようです。

 https://www.b3cnewswire.com/202011202154/marinomed-biotech-plans-clinical-trial-with-carragelose-nasal-spray-to-investigate-prevention-of-covid-19-infection-in-frontline-healthcare-staff.html

鼻スプレーなどはこちら。

http://www.coldamaris.at/coldamaris-rachen.html

カラギナンは食品添加物として、アイスクリームの粘性を増したり、あるいはいわゆる増量剤にも使われてるのかな、ありふれたもので、日本でもアマゾンなどから買えます。こんなものが、と調べてみると、きっかけはこの論文でしょう。pdfです。

https://media.marinomed.com/fa/45/58/2020-07-28-224733v1-full.pdf

まだ査読されてなくて、bioRxivにおかれてます。これは培養細胞を用いて新型コロナの感染性を調べたものです。カラギナンには3つのタイプがありますが、この図を見るとこのうちのイオタ型が一番よく効くのがわかります。



ただ、この図を見るとCMC、ごくありふれたねばねばをだす薬品でもある程度は感染を抑える活性があることがわかります。また、ここは利益相反がばりばりなので、どうかなあと持ってほかを探すと、特許情報もあり、こちら。

https://patents.google.com/patent/JP5647518B2/ja

特許情報なので長いですが、ずっと読んでくと、すでにコロナウイルス(但し新型ではない)を含む様々なウイルスに対して、特にイオタ型カラギナンが細胞への感染を抑えることは前から示されているようです。なおウイルスが来たときにこれがあることがカラギナンの抑制作用に必要で、前もって細胞をカラギナンで覆っておいてもダメらしい。ともかく、カラギナンの作用があっても特別驚くようなものでもないということはわかります。

先に書いた、アズレンとあわせてこのイオタ型カラギナンを使って、喉スプレーやうがいなどに使えば、新型コロナへの感染予防に良さそうには思えます。冒頭に書いた臨床試験はこのための試験ですが(アズレンは無いにしても)、こんな安く手に入って無害なものなら作ってみようかな。イオタ型はパンナコッタ専用ともいわれてるそうで、カルシウムがあるとすぐに固まるらしいので、調製方法に要注意かもしれません。自分で作るときは雑菌が生えないようになにか安全な防腐剤を加えておく必要がありますね。

2020年11月20日金曜日

早くアルコールを抜きたいとき

アルコールの代謝は意外と遅く、飲んだら翌朝まで残るものです。年の暮れも近づき、大学から厳しくお達しが来ます。ついつい飲みすぎてしまったとき、翌朝の運転は恐ろしいものがあるかもしれません。なお私はそもそも免許を持ってないので、この恐怖はvirtualですが、人を見てると、どきどきすることがあります。

早くアルコール濃度を下げるのにどうしたらよいか。血中のアルコールはもちろん腎臓によっても代謝されますが、実はその割合は小さく、呼気によって出ていく量のほうが大きいことが1世紀前から知られていたそうです。つまり呼吸を激しくすれば血中のアルコールは減るということ。だけど、これはすぐに過呼吸になるので、あんまり現実的じゃありません。呼気検査を受けるとき直前にやれば多少は下がるのかもしれませんが、まったくお勧めしません。

というのはともかくとして、これには、炭酸ガスを含む空気を吸えばいいのかもしれないという論文がトロント大の麻酔科からScientif Reportに発表されました。

この実験では5人の被験者に1Kgあたり0.5gのアルコールを5分間のませ(つまり少量の飲酒ではあります)、5.5%炭酸ガスを含む空気を吸わせました。これを等炭酸ガス過呼吸というそうです。Fig1にその結果がありますが、大体90分くらいすると、血中のアルコール濃度は1/3くらいにさがりました。なおこれにはリバンドがあり、この空気を吸わなくすると、また濃度が上がったそうですが。

ということは、細胞培養に使う炭酸ガスインキュベータに頭を突っ込んで2時間くらいいればいいのかな。そんな漫画みたいなことしなくても、5%炭酸ガス/空気というボンベがラボにありました。これを吸えばいい?

だけど、呼吸には酸素濃度は厳しく20%である必要があり、10%になると意識を失い8%で死ぬので(6%では一息で死亡)、一般家庭で試してみるのは危険です。こんなことに命はかけないようにしましょう。だけどがんばって気を失わないように袋を口に当てて過呼吸を続けると多少は早く抜けるのかもしれません。酸欠にならないように要注意ですが。

となると、あんまり役に立たない知識でしたが、水飲んでもだめなのね、ということはわかりました。

2020年11月15日日曜日

Win10を20H2に更新するとVaioがネット不通に

20H2はWindows10の新たなversionで更新することができます。ただまだ、強制的にするようにはなってません。休日、将棋を見ながら遅いブランチをとったあとで、ノートPCVaioのVJS1111で止めていた更新を解除して、この20H2を入れてみました。かなり時間がかかって、再起動して更新完了。ところが、ネットがつながっていません。

不思議なのはネットワークアダプタは動いてるように見えて、WiFiを検知しています。だけどインターネットはつながらない、と表示されます。ルーターも調べたものの特に異常はありません。ほかのデバイスではWiFi経由でネットにつながります。ではとLTEでネットにつながるかと調べると、こちらも、アダプタは動いてるようですが、インターネットがありません、という表示。

Windowsのネットワーク接続のところではアダプタは有効になっていて、念のために修復もしてみても同じ。

これはどうもこの20H2の更新は私のVAIOではやってはいけないらしいということ。やむなく、WIndows Updateにいって、更新の履歴を表示する>更新プログラムをアンインストールする、で20H2を削除しようとしたものの、再起動後でもWiFiは回復しません。ただ、どうもまだ20H2が残ってるようで、ちゃんとアンインストールされなかったみたい。では、というわけで、更新の履歴を表示する>回復オプション にいって、前のversionのWindows10に戻す のところを開始。再起動後、今度は何気なく元通りにネットにつながるようになりました。ほっと一息。

やはりセキュリティのアップデートと違って、OSの更新はなるべく遅らせること、を改めて確認。普通は30日は遅らせるようにしてますが、さらに遅らせないとといけません。正月にもしかするともう一度やってみるかどうか。無駄な電力使いました。

2020年11月12日木曜日

RNAワクチン 追記

新型コロナのmRNAを成分としたファイザーのワクチンが「有効」という予備的な発表がありました。モデルナのがmRNAワクチンでは先行してると思ってましたが、さすがは大ファイザー、ネットワークが違います。ただ詳細がほとんどわからないのですが、どうもファイザーのはmRNA自体の安定性があまり改良されてない普通のRNAで、我々がRNAを扱うときと同じくらいの高い注意が必要なようです。保存は-80度は必須で、そこから出したときにはなるべく早く使いたいところ。はたしてこれを世界中に分配するときにどこまでできるか。地元の自治体などでは無理です。大学には沢山ありますし、うちのラボにも3台ありますが、どれも満杯で、空きはまずないのが普通。病院ではよほど大きくないと一台もないでしょう。ただ、ドライアイスを使いまくって配送、投与するという手はあります。

これに対して、モデルナのワクチンはRNAの分解されやすさが改良されてます。少なくとも超低温は必要としません。RNAを修飾してるのかな。この会社は新型コロナだけでなくて、頭頸部扁平上皮癌に対するガンワクチンも開発していて、高い技術力を持つようで、新しいワクチン作成企業として本命でしょう。

ただ、モデルナのワクチンでも、これでも人類に用いられたことのないもので、人体実験であることにかわりはありません。もちろん、安全性はほかの組み替えウイルスタイプなどのに比べれば遙かに高いはずですが、ちょっとわからないのは、分解されて断片になったものが何か悪さをしないだろうかということです。

短いRNA断片がいろんな生理作用を持つことはよく知られてますが、RNAワクチンが壊れた時に作られたものが、本来の短いRNAと似たような作用を示したり、あるいは生体にあるそういう短いRNAの活性を邪魔したりはしないのだろうかとは思います。もちろん、実際に入る細胞はごく少数なので、仮にその細胞内で毒性が発揮されたとしても、その細胞は死んでしまって人体には影響しないだろう、とは思います。だけど、一番心配なのは、それがガン化を引き起こすことがないだろうかという事。あくまで理論的な可能性で、起きる確率はものすごく低いとは思いますが、検証には10年以上かかります。ワクチンは普通の薬と違って、健康な人に打つので、普通の薬以上の安全性が求められ、人類初のRNA薬である以上は、それなりの時間が必要です。アデノウイルスを用いる他社のワクチンはこれより遙かに高いリスクがあり論外。従来型の蛋白を使ったものが一番安心。でもそれにしても2-3年は様子見だな。

追記

欲しいのはワクチンよりも簡単な薬。早い時期から出ていたカモスタット・メシル塩酸塩はどうなってるのだろうと、世界の治験サイトを覗いてみたところ、現在、15件の臨床研究が行われていて、まだどれも有効性に関する研究は終えてません。ちなみに今、世界中でCOVID19に関する臨床研究は4132件も行われていて、これまでかつてない件数となってます。カモスタットのはこちら

https://ichgcp.net/clinical-trials-registry/NCT04451083

安全性に関する小野薬品の試験のみが完了してます。今日、小野薬品は第三相の治験を入院患者を対象にはじめまたというニュースがありました。何にも結果は明らかにされてないのですが(治験なので当然)、少なくとも打ち切りにはなってません。これから患者が一気に増えていってるので、結果は近いうちには出るでしょう。少なくともものすごくよく効く特効薬ではない、というのがコンセンサスと思いますが、安全ならば、弱い効き目でも使いたいところです。

追記 11月15日

こう書いた端からモデルナが、高い有効性があるというデータを発表しました。やはりこのRNAワクチンでは-20度程度の冷凍保存ですむようで、何か工夫されてます。相当高い技術で、これが遺伝子ワクチンとして本命でしょう。それでも、人類史上初であることにかわりはなく、上に書いたような懸念は残るわけですが。

もっと追記

モデルナのニュースが流れてましたが、どうも、気になります。あれくらいの設備で世界を救えるようなものが作れるとは、ちょっと思えないけど、工場は別にあるのかな。あの会長さん、ちょっと怪しげだし。という印象の話はさておいても、気になるのはRNAそのものということだけでなく、それを細胞内に入れる試薬、どうもリポソームとかいわれてますが、そうだとすると、それ自体の毒性が気になります。リポソームを使ってDNAをいれたりするのは、我々日常的にやってますが、問題は細胞毒性。必ず出ます。これはもう何十年も改良され続けてますが、それでもやはり毒性は出るので、おそらくワクチンもリポソームを使って入れるのなら、同じ問題はあるでしょう ←これは間違い。リポソームですが、LNPというdurg deliveryを使います。あとで書きます。

2020年11月8日日曜日

ようやく

 ようやくメディアが当確を打ってきました。寝る前にペンシルバニアで99%開票となりすでに3万票近く差がついていたので当確にしないとは随分慎重だなと思ってましたが。休日の朝にしてはちょっと早かったけど目が覚めたときにすぐにスマホでチェック。この当確をうけてバイデン氏とハリスさんが勝利演説を行いました。BBCとCNNで見てました。ハリスさんの英語がとってもわかりやすく良い感じ。そのぶん、バイデンさんの東部訛りとちょっと難しい言葉に苦戦しましたが、だけど格調高いことはよくわかりました。

まだ確定ではないのですが、さすがに大統領権限でも一人では無茶苦茶はできないので、これがひっくり返ることはないでしょう。ただちょっと不思議なのは、この当確はメディアが打ったもので、バイデン陣営はこれを受けて勝利演説をしたこと。政府よりもメディアの方が強いということか。だけど、これは何のかんの言われてもメディアへの国民の信頼でもあり、健全なのかもしれない。政府のいうことは多くの国民はあんまり信頼してません。

これまで米国最低の大統領はというと、ウォレン・ハーディングという、1921年から3年までの大統領ということになってきました。Bob Dylanのアルバムタイトルにもなった曲、John Wesley Hardingもこの人のことともいわれてます。例によってはっきりしませんが。彼は、America firstを掲げ、移民を排斥して国際連盟を脱退し、富裕層の減税を進めて、消費の大拡大をもくろんで、これが29年の大恐慌につながったとされています。さらに政府内要職には友達で固めたのも有名。その多くが職権を乱用して汚職に走り、一人は汚職で摘発されて1年間監獄暮らしになりました。

ハーディングはアラスカへの遊説の際に食中毒になり、そのあとで脳梗塞になってやめたとか、自殺とかいう話もありますが。トランプのこの4年間はハーディング大統領とよく似てるところが多くありますが、トランプさんは友達どころか一家を要職に就けるところからはじまり、ハーディングを上回る史上最悪の大統領として記憶されるのは確実。アメリカの負の側面を世界に晒しました。

世界にとって、彼がいなくなるのは喜ぶべきことです。共和党の理念自体は人種差別、文化への軽視とは本来は無縁で、優れた人も大勢います。なのに何でこんなのが出てきたのか、これは今後、多くの研究の対象になるでしょう。こういうファミリーのために、世界がエネルギーを使ってる余裕はありません。

いかに彼が地味かというのは、私の使ってるATOKのちょっと古いのでは「ばいでん」とうっても、売電としか変換されないことからもわかるとおり、古すぎるというのはさておき。

2020年11月6日金曜日

食べるワクチン

 投票日の次の日は信じられない思いでニュースを見ていて、かつてその地で暮らした人間として暗然たる気持ちになってました。が、朝起きるとロストベルトの州をバイデンがとったとの女房の知らせに持ち直し、先ほど、ジョージアで逆転して、なんとかなりそうと、胸をなで下ろしてるところ。

それにしても、半数の人間がトランプの言動を見て嫌悪感を覚えないことにあらためて驚きます、なるほどこうやってヒットラーは民主的にユダヤ人大虐殺の道を歩くことができたのかとも妙に納得しました。投票所で銃を持って投票に来る人をにらみつけてる若者はまるでヒットラーユーゲントのよう。投票に行ったらこんなのがいたら、と思うとぞっとします。人間は一向に学習しません。バイデンが勝っても半数がそういうことにを支持してる情況にに変わりはなく、アメリカにはもう二度と行かないかな。一体、アメリカの理念と理想はどこにいったんだ。日本でもどんどん広がってるポピュリズムは憂うばかりですが。

いまはともかくバイデンの身の安全を願うばかりです。あんな支持者が人口の半分を占める中を道を歩いて会場に入るのは、見ているだけで冷や冷やします。まさに命がけだ。

そんな中、新型コロナが激しい勢いで広がってます。NYでは20%程度の人が7月の時点で新型コロナに対する抗体を持っていたと報じられてます。死者は米国の全人口の0.1%を超える勢いです。フランスでは、わずか一日で全国民のほとんど0.1%近くが陽性になってます。

治療法は大分進歩して重症者は減ってきてはいますが、意外なくらい新しい薬は出てきません。唯一、希望が持てそうなのは、食べるワクチンがオーストラリアで治験がはじまったというこのニュース。

https://www.businesswire.com/news/home/20201102005496/en/

bacTRL-Spikeというこのワクチンは何と乳酸菌です。この菌には新型コロナのスパイク蛋白を作るプラスミドDNAが含まれ、おそらくこの菌が小腸上皮細胞に取り込まれる際に一部のプラスミドが細胞内に放出されて、それがその細胞でスパイク蛋白を作るように仕組まれているのでしょう。ほんとに効くのか、とは思いますが、腸管免疫はバカにできません。長期的にも安全性は高そうで保存も楽で、配ればいいので広めるのも容易なはず、唯一、期待の持てるワクチンかもしれません。

追記

最初、自由党のJo Jorgensenがジョージアで6万票もとっていて、キャスティングになってることを書きましたが、この党の主張、ちらっとしか見てなかったもので、大幅に間違ってかきました。この人についてはこちらの記事が詳しい。news.yahoo.co.jp/byline/saorii/20201106-00206676/

極端な自由主義を掲げる党で、共和党に不利になったというのがこの人の見立て。たしかに内容は共和党に近いのだけど、心情的にはそうでもない気がする。ともかく、この人の記事は詳しく事実については正確なようで、この部分、速攻でカットしました。

2020年11月2日月曜日

またレディ・ガガが来るらしい

いよいよ明日が米国大統領選挙の日。トランプのあまりの卑しさに、余所の国のトップのこととはいえがっかりしてきました。ただこれは米国だけの話ではありません。ポピュリズムは世界共通の問題で、特に今はじまったものでもありません。ヒットラーだって大勢の熱狂的な民衆によって誕生した政権でした。そういう政治家がいるということは同じような人間がそれだけいるということ。

誰にも彼のような部分はあります。ただ、そこは恥ずかしいから表に出さないようにしてるだけ。日本でも同じことがいくつもおきてます。自殺者すら出たのに森友学園には関与しなかったと言い張って通した元総理、政府に反対する学者は日本学術会議員に任命してなくてもそれは大学の偏りだ、既得権益だ(このほぼボランティア団体にどこに利益があるものか)と次々に思いついたことを言い張る今の首相、あるいは都合の悪い話はデマ・フェイクというだけの大阪維新の会、どれも根は同じこと。昨日の大阪市廃止の住民投票は基本的には悪いものではないという感じはしてましたが(大阪が決めることであんまり見てないけど)、大阪維新の会はちゃんとしたシミュレーションが出せず、ただ怒鳴るだけ。トランプと同じでした。

学術会議の件は、政府の問題はひどいが、それ以前に、この組織自体が学問的に正しいことなら政府が受け入れるはず(あるいは、なければならない)という前提に基本的な問題があると思います。そんなのはお花畑でしょう。こういうものは廃止して、横のつながりのない学会同士をつないで国のあり方に忖度せずに意見できるような独立した組織を作らないとだめだろうに。私の属する学会でも意見表明してますが、政府と学会の双方に別の問題がある事を感じて、私はノーコメント。

ともかく、気になる明日の海の向こうでの選挙。ここに来て、レディガガが最後の支持集会に出てくるというニュースに、またかとひんやりする感を抱いたのは私だけではないはず。前回、最後の支持集会でレディガガがサプライズ登場してきて、ヒラリーが、thanks, Gaga とかいったのを見て、どうせエスタブリッシュメントの集いと、いやになった人が増えたのじゃないかと思っていたら、案の定。

もともと、バイデンがいいとはちっとも思えない、だけどいくらなんでもトランプよりはずっとマシという、きわめてmotivationの上がらない闘いです。レディ・ガガガガには引っ込んでいて欲しいのだが。

2020年10月22日木曜日

NVMe M.2 SSDに換装!爆速に

 SSDで速くなったと喜んでたけど、世の中には既にNVMeSSDというものがあり、これのread writeの速さはSSDの4-5倍になるという話を知って深く恥じ入り、システムドライブをNVMe 接続のM.2 SSDに置き換える事にしました。私のメインPCのどのSSDも8-9割くらいになりつつあり、そろそろ追加が必要になってきたのでちょうどいいと。

買ったのWesternDigital のBlue SN550 PC M.2-2280、皆さん買ってるのでこれなら安心だろうと。ただ、ネットを見ると、サイズがSSDよりもかなり小さい分、放熱が必要で、ヒートシンクつきのもあってこれをやらないと70度近くになったという話をよく目にします。またHDからSSDの換装に比べてうまく行かないことも多い、という記事も多い。

加えて、ちょっとややこしいのは、システムドライブが1Tで、さすがにそんなにシステムはくわないので半分をpartitionして別のデータストレージにしてたこと。だけど、システムもいちいち整理しないと空きスペースが減る一方。そこで拡張しようと、Windowsのコンピュータの管理>ディスクの管理、を右クリックで見ると、縮小はできるけど拡張はできなくなってます。システムドライブだけをNVMe SSDに換装したいのだけどそんなのができるのか。

ネットで調べると、この換装はアプリを使えば簡単という話。だけど、複数のドライブが入ってるストレージからCドライブだけをコピーするのは、有料版の機能。こういうときに使うのはEaseUS todo Backup ですが、これで無償でできるのは

のクローン、バックアップ機能くらい。なのでとりあえずNVMeをASUS Z270AのM.2のところに刺して、CドライブとデータドライブのはいってるストレージをNVMe SSDにクローンしました。中身は500Gくらいでしたが、30分くらいで完了。かなり速い。

そこでシステムドライブの入ってるSSDを外して、NVMe SSDだけで起動したところ、checking deviceとでてその下に、
PXE over IPv4
という表示が出てしばらくそのまま、ダメかと思ったらしばらくするとWindowsが起動してきました。どうやら正しくクローンはできてるらしい。ただ、このIPv4なんとかは意味あることで、あとでわかりました。

次にこのNVMe SSDのデータドライブの部分をカットしてシステムドライブをこの部分まで拡張したい。これにはEaseUs Partition Masterをつかえばフリーでできるということがわかりやってみたところ、確かにあっさり完了しました。しかし、旧システムドライブの入ってたSSDを、これで混乱しないのかなあとさしておそるおそる再起動したところ、案の定、起動しません。。。

このあたりからよくわからなくなり、幾度も再起動させてダメ、の繰り返し。これではだめだとNVMe を外して、システムの入ってるSSDだけで立ち上げようとしたところ、なぜかこれすらダメ。おかしい。

だけどこんなのでマザボASUS Z270-Aが壊れるわけもなし、ならば、とBIOSの設定にはいり、起動のところを見ると、なんとSSDが起動ディスクとして出てきません。なんだといろいろ調べると、どうやら起動の下にあるCSMという、認識するデバイスのタイプのドライバーを選んでる機能と関係することがわかりました。CSMなんて知らなかった。これはレガシーとUEFIのいずれかをあらかじめ選ぶ機能で、これによって安定化するとかBIOSの説明にあります。この辺、よく知らないのですが、SSDはフォーマットのときにGPTではなく保守的にMBRを選んでました。これはレガシーになるのかな?だけどCSMのストレージデバイスを見るとなぜかUEFIになってます。それとも再起動を繰り返してたときにCSMの設定を変えたのか?ともかくこれをレガシーに戻すと今度は元通りのSSDから起動しました。

ならばと、NVMeもMBRでイニシャライズしたので、ならばとPCIデバイスの設定をレガシーにしてみると、これも起動せず、
BOOTMGR is missing
との表示。ではと、UEFIにしてみたけど同じくだめ。だけど、このとき、NVMeデバイスは起動ディスクの選択肢に出ています。こういうとき、ネットの価格コムの口コミのを見ると、これはクローンに失敗してるからやり直しとあり、仕方なくやりなおそうとEaseUS Backupでクローンのstartボタンを押してこのアプリがしばらく準備を始めたところ、ふと、Windowsのコンピュータの管理>ディスクの管理のところをみると、このSSDの
の左端の86Mの小さな領域、システムの立ち上げに関わる部分が、アクティブ、になってないことに気がつきました。system (C)のほうはアクティブにして起動するようにはしてましたが、ここはやってなかった。これがないと起動ドライブには使えません。

ひょっとして、とあわててクローンを中止し、幸いキャンセルできてもとどおりになったので、この86Mの領域を右クリックでアクティブにして、これで再起動しました。

何とこれであっさり立ち上がり、この状態で、旧システムの入ってたSSDも自動的に別のドライブの名前がアサインされて混乱しないようになってます。これだったのか。有料版のEaseUSのシステムの移行というのは、このアクティブの設定をするだけなのかもしれない。ま、ソフトなんてそんなものです。

つまり、正しいCSMの設定は私の場合、
CSM  UEFI/レガシーOPROM
ネット (UEFIドライバにしたがこれは使わないから関係ないはず)
ストレージデバイス レガシー only
PCI    UEFI only
でした。NVMeはPCIに刺してることになると思いますが、MBRでフォーマットしたもののここはUEFIでいいらしい。またストレージデバイスも普通は起動に使うわけでないからレガシーかどうかは関係ないかもしれません。ともかくこれで動きます。

ともかくこれで換装は完了。体感は相当速くなりました。特にPRINCIPLES OF FLUORESCENCE SPECTROSCOPY や細胞の分子生物学のような1000ページ近い大きな本を開くときでも以前ならページを速くめくると表示が追いつかず数秒間は空白になってましたが、それがなくなり、物理本のようにパラパラめくりができるようになったのは感動的です。パワポも500ページを超えてくると表示が結構遅れますが、そういう遅延もほぼ消滅しました。これは大きな違いです。

CrystalDiskInfoで読み込み書き込み速度を調べると、SSDにくらべて連続読み書きではおおむね4倍速くなってるのがわかります。

ハードディスク時代に比べると一桁アップです。なお、温度はWDのDashboardでみると少なくとも普通に使ってるときは36度の平熱で安定。CrystalDiskInfoで読み書きテストしてるときでも最大51度と余裕で終わるとすぐに平熱に戻ります。フォルダ移動のために300Gくらい連続読み書きしても最高で55度どまりで、なにもつけてなくても放熱にはあまり問題ない模様。

あとはNVMe SSDのマザボへの固定が心許ないので、固定ネジをアマゾンで見繕ってASUS対応のが見つかり早速購入しました。備忘録でした。たいして期待してませんでしたが、すごい進化。

追記
ASUS用のネジ「マザーボードM.2ソケット用ネジセット SST-CA03」がアマゾンから到着。必要なのはネジ一つだけど、1500円近くしました。ともかく、これは完璧にフィットして、完成。こんな具合になりました。

ASUSの文字の下、中央の青い板がついてるのが今回買ったNVMe SSD。右側にソケットがあってそこにさしてます。ネジは左側ので、少しボードから浮くようになってます。ストレージ本体はネジの右手の黒い2センチ四方くらいのチップと思います。これに1T。まさに人類の進歩。

2020年10月17日土曜日

欧米で感染者が急増

 福島では郡山を中心に、感染者数がこれまでにない数値を出してきています。行動追跡によると駅前に集中しているとの発表。福島では一番の賑わいのところで、東京から列車一本で80分で着くところなので、これまで増えてなかったことの方が不思議ではあります。県庁のある福島市では昨日は一人でたものの、このところ、ほとんど報告されてません。駅前の賑わいの差なのかと、福島市の住民としては微妙ですが。

東京はほとんど減ることもないまま、次第に増加する兆しが出ているように見えます。ただそれでもヨーロッパに比べるとずっと少ないレベルであるのは確か。今日の感染者数とその過去3週間のデータをour world in dataから抜き出したものがこちら。


北米の2つ、米国はトランプなのでしかたないにしても、一時期500人も切っていたカナダでも増えてきています。ヨーロッパ各国は軒並み激しい増加で、4週間の夜間外出禁止令が出たフランスを筆頭に、英国でも数万のオーダーで連日増えてきています。ポーランド、チェコなど東欧でも人口比で行くと高い感染者数になっています。また、スイスでは陽性者数0の日さえついこの前までありましたが、この数日では2000人を超えてます。

北欧をみてみると、スウェーデンでは昨日は970人で、この急増具合から行くと、今日にも1000人を久しぶりに超えそうです。ここも爆発しそうな勢い。下のグラフでは数字が今の時刻の数字なのでわかりにくいですが、各週の平均値で見ると、ノルウェーではこの3週間では、大体、100、200、200人、フィンランドではちょっとばらつきますがおおよそ100、200、200名くらいでしょうか。

人口はスウェーデンが1000万くらい、ノルウェーとフィンランドが500万くらいと倍くらいしか違わないのに、総感染者数は圧倒的にスウェーデンのほうが多く、また死者数も多いのは、よく言われるようにマスクを意地でもしてないことが大きいのかな。スウェーデンでもレストランは日本とは違ったモードで結構厳しく規制してますが、マスクだけは効果ないという判断に固執してます。一度言い出すとメンツでとり下げられないのはわかりますが、人の命に関わるわけで、あとで責任が問われそうです。全体として、ヨーロッパではこのようなノルウェー、フィンランドにくわえて女性首相ががんばってるデンマークの健闘が目立ちます。

それにしてもこの要因は何なのだろう?10月に増えるというのは予測されてなかったと思います。それとも、9月にvacationから戻ってきてそこで増えていたものが一気に広がったということでしょうか?

新型コロナによりこれまでに米国では既に国民の0.1%を超える人々が新型コロナのために命を落としています。やはりアビガン、レムデシベルは微妙なようで、手軽に使えて有効な薬の試験結果が待たれます。WHOはレムデシベルは効かない、と結論しましたが、やはり。それでもレムデシベルでしっかり儲けたギリヤドとトランプの勝ち。

ほかの薬に関する臨床試験結果もそろそろ出てくる頃です。感染者数が激増してるので、これからどんどん結果も出てくるでしょう。それにしても犠牲を伴わねば結果が確定できないというのは厳しいところですが。長期的にはワクチンがいいのかもしれませんが、この数年で考えると、特効薬とはいかなくても開業医で出せるような薬が出てくることしか、現実的な解決策はないような気もします。

2020年10月9日金曜日

レビー小体型認知症治療薬、Ph2へ

 認知症の中でも最も厳しく治療薬のないのがレビー小体型認知症。私の父はこの病にかかって5年の闘病の末亡くなりました。本人がその病の進行を自覚でき、治療もないことがわかっているので、とても残酷な病気です。子供らは好き勝手に遠くにいるので、お袋が一人で看病をがんばって続けましたが、日々、壮絶さを増し、最後の1年間は施設になりました。高齢とはいえ、本人も周りも辛いものがありました。

レビー小体型認知症は主にαシヌクレインが凝集して大脳で蓄積して起きるとされてます。脳幹で起きればパーキンソンです。アルツハイマー型はアミロイドβとタウの蓄積によるとされてます。かなり対症療法的ではありますが、パーキンソン病に対する治療法は大分進歩して、30代でこの病にかかったマイケルJフォックスは、積極的に治療に取り組んだ結果、俳優として再度スクリーンに登場できるまでになりました。アルツハイマー病に対する抗体治療薬のことは前に書きました。

レビー小体型認知症はこれに対して、治療らしい治療がありません。医者もこれになるとあきらめます。父親の場合、本人の前で、治療法がなく悪くなる一方であることを散々云って、落ち込ませてしまい、ひどい医者だとお袋が怒ってました。私も医学教育に携わる人間として、こんな医師を世に出してはならないとは思います。ただ、それが医学のコンセンサスであることは否定はできません。

直りはしないまでも、治療法はあって欲しいと願います。ここで、ようやく新しい薬の可能性が出てきました。neflamapimod(ネフラマピモド)という飲み薬が米国で第二相の臨床試験において、主要目標の認知機能改善において効果が認められたそうです。こちら。

https://www.prnewswire.com/news-releases/eip-pharma-announces-positive-phase-2-results-for-neflamapimod-in-mild-to-moderate-dementia-with-lewy-bodies-dlb-301146415.html

この薬は、p38αというタンパクリン酸化酵素の阻害薬です。最近わかってきたことは、この酵素が、ストレスなどで炎症を起こしたときにシナプスで増え、それがさらに炎症を起こして神経細胞を破壊するらしいということです。ならばこれを抑えればいいだろうというわけで出てきたのがこの阻害剤。

細胞レベルでの試験では、アルツハイマーで損傷することがわかっているエンドサイトーシスの機能を正常に戻す作用があることが示されてるそうです(この論文は発見できず)。そこで、これをアルツハイマーの患者7名(125mg)と9名(40mg)で試したところがこちら。


上が短期記憶、下がエピソード記憶。12週間のテストです。記憶のテストで明らかに量に応じて改善が見られてます。ただし、認知力には変化は見られなかたそうです。この結果、数が少ないことと、なぜbase laneのところで投与群に差があるのか、わかりませんが。

これはアルツハイマーの結果ですが、レビー小体型認知症の治験でも、有効であるという判定がついたという発表が、詳しくは11月の13th Clinical Trials in Alzheimer's Diseaseで発表されるそうです。期待が持てそう。ただ、p38αはシナプスに限らず全身に出ていて、いろんな信号の伝達に関わる酵素なので、長期的に飲んでも大丈夫なのか、気になるところではあります。この試験期間ではとくに副作用は見つからないとのことでしたが。

2020年9月30日水曜日

Word が開けない「ファイルを開こうとしてエラーが発生しました」 Origin、EaseUSでも

メールで来たOfficeのファイルを開こうとすると 

 「ファイルを開くことができません。ファイル形式、またはファイル拡張子が正しくありません。」

「ファイルを開こうとしてエラーが発生しました」

「ファイルは破損しています」「データを保存するスペースがありません」

 などのエラーが出て、開けないことが今日も発生。先月も同じトラブルがおきて、あちこちサイトを探して修復したのに。

ただ、どうやったかを覚えてません・・・ 関連するサイトを調べても、セキュリティを外すなどのアドバイスが書いてあり、ちょっと今どきやばそう。

仕方なく、ブラウザの履歴で前回有効だったアドバイスを探したところ、こちらでした。

https://boxil.jp/beyond/a6764/

やはりこうやって貼っておかないとすぐ出てきません。この最初に書いてあるように、

プログラムとアプリ>Microsoft Office>アプリの変更>修復

するだけで、前回と同じように解決しました。このサイトには再起動するようにありますが、それも必要ありませんでした。

こんなことは以前はなくて、おそらくOSの更新との関連でしょうが、なんだろう?

ともかくも備忘録でした。


追記

Originという数値計算ソフトを良く使ってます。突然、ライセンスが確認できないので1週間で終了ね、というエラーが出てきました。何度も米国のOriginのサイトに行ってライセンスを一旦消してはオンにするという作業をしましたが、そもそもこのdeactivationが正しくライセンスのサイトに反映されないという妙な問題。

ふと上のOfficeのトラブルを思い出して、アプリのところから変更>修正を行ったところ、自動的に再インストールになり、しばらくすると、完了してライセンスのところに行きました。これでどうだとやってみると、今度は認証されました。

どうも、OSの更新でいくつかのアプリが影響を受けてるような気配。ほかにも出るかもしれないので要注意です。

追記2

不具合ではないのですが、ソフトから紛らわしいことを要求されるのでメモ書き。文科省も警告を発してるやっかいなランサムウェア対策には、オフラインでのまめなバックアップしかありません。これにはWindowsの機能もありますが、今はしらないけど、以前のは碌なものではありませんでした。そこで使ってきたのもちろんEaseUS todo Backup。バックアップしたものは確実に回復できます。ずっとフリーのを使っていて、ただ、それも悪いかと、購入はしました。このとき永続版を買ったつもりだったけど、なぜかライセンスが認証されなくなりました。結局同じ問題なのかな??

仕方なしにTrial版で30日間使ってましたが、期間が過ぎて立ち上がらなくなりました。どうするか。元々フリーで使えるのが売りだったわけで、ならばと、まずこのTrial版を削除して、新たにフリーのをダウンロードしてインストールしてみました。はたして、これで、これまでTrial版で作成していたバックアップファイルや設定が使えるか? 

やってみると、このフリー版でもTrial版とまったく同じようにこれまでの設定とファイルが使えて、定期的にバックアップすることができました。ありがたい。

有料のにするとほかの機能がつくようですが、バックアップにはあんまり関係なし。優れたソフトです。上の2つの問題とは関係ないと思ってメモ書きしましたが、そうでもないのかな。いろいろと出てきます。


2020年9月22日火曜日

保済丸・・PayPalでrefund

 長らく海外から物品を公私を問わず購入してきました。トラブルらしいトラブルといえば、英国のAbbexa Ltdという抗体メーカーからウサギ抗体を買おうとしたときに税関で動物由来のものだろうと輸入許可が下りず廃棄になったことぐらい。Abbexaの対応には腹立ちましたが、まあこれは抗体購入、特にウサギよりも大きな動物で作られた抗体につきもののトラブルではあります。これ以外、たとえば最近増えてきた中国からの購入では、大抵はAliexpressかAlibaba.comを経由して買うので、まず問題は起こりません。

そんなので油断してたのか、びっくりするような変なところにぶつかりました。買おうとしてたのは、保済丸 / ポーチャイピルPo Chai Pills という、香港で有名な生薬の胃薬。 Wikiにも英語版があります。食べ過ぎが続いて胃が疲れてきたりしたときに、この仁丹のような粒のつまった小さな一瓶を飲むと、そのときは爽快感などはないのですが、不思議と気がついたら回復させてくれます。大正漢方胃腸薬よりもずっと確実。

これはずっと昔、モントリオールでポスドクしていた頃に私の後任に来てくれた中国人が教えてくれたものです。彼はお母さんが病気がちだったそうで、少年時代には山を歩いて薬草を探したとかで、生薬のことにとても詳しい。以来、この薬は学会で海外に行くたびくらいに買ってましたが、このところ全然海外に行ってないので、さすがに在庫が尽きてきました。

北米のChina townで買うと10瓶入った一箱が3ドルくらいで買えますが、楽天やアマゾンだと1000円くらい。ばからしいなあとあちこち見てると、それより4割くらい安いところがありました。こちら。http://pochaipills.50webs.com/

本場香港のショップ。ここの正式な名称はFengshui Shop 、つまり風水店という、いかにもな名前のとこらしいけど、サイトにはたぶんどこにもでてません。何の疑いも持たずに購入手続きに入ってみようとクリックしたところ、購入確認もなしに、いきなりPaypalからの支払い完了通知が出ました。まあ、買うつもりだったので良いかとそのままにしてたところ、すぐにメールが来て、日本語も英語もありましたが、日本語はこんな風。

「こんにちは!  ありがとうございます!私達はすでにあなたの注文書を受け取りました!

 私達は発送致します、関連商品を:」

とあって、よかったと思ったら、

「加えて、2020年7月28日以降、ウェブサイトの限定的なサービスが提供されることをお知らせいたします。  ただし、注文はまだ倉庫に残っています。 この問題に取り組むための2つのオプションがあります。

1. 航空便が再開された場合は、2020年11月30日に航空便で郵送してください。 

2. Paypalからのリクエストに応じて全額払い戻しを行います。 ご不便をおかけして申し訳ありません。 健康で良い一日を。」

とあって、どうも、何らかの理由で今は発送できないらしい、香港だから、政治的なトラブルかなあと同情して、まあ、だけどキャンセルするしかないかと思い、refundを選択します、と英語で連絡したところ、

「Thank you for your support and consideration.

Full refund will be issued upon your request through PayPal.

Stay safe and have a good day.」

ときました。おかしいなあと思いつつも、PayPalに行ったところ、これがとってもわかりにくく、メッセージセンターのchatに日本語で書いたものの返事が来ない。ここはchatではなくメール代わりのものらしい。そういえば、以前もPayPalは英語でないと対応しなかったことを思い出して、英語で書いたら今度は翌朝に返事が来ていて、refundするなんてsellerがクリックするだけなんだけど、というやる気のない返事。

なんだか、面倒なことになりそうだと、金額が少ないから大したことではないもののとは思いつつもいやな感じがして、このshopにその旨をメールすると、今度は

「Thank you so much for your email.

Yes, please kindly file a dispute. We will then issue a full refund upon request.

Thanks again for your support and cooperation. Enjoy your day.」

とすぐに返事が来ました。PayPalからの意義申したてがこないとrefundしない、つまり自分からはrefundしないということ。

こりゃだめだとメッセージセンターで再度報告して聞いたところ、今度は問題解決センターから「クレームにエスカレート」するようにという連絡が来てました。ではとPayPalの問題解決センターに入って大分あちこち行きつ戻りつして、ようやく見つけたページで、これまでのメールのやりとりを添付して、これまでのやりとりを説明して、ここは妙だ、ということをPayPalに伝えたつもりでした。

ところが、このときどこをどう見落としたのか、shopの方への連絡を選択していたようで、このクレームがそのままshopに送られてしまいました。ま、そのまま書いただけなのでたいしたことないけど、これではらちあかんと、メッセージセンターに書いたものの、返信なし。

どうもここはだめらしいと、ちょうどここで月曜になったので、電話が使えるはずと思い出して、電話したところ、割とすぐにつながり、担当のChineseの人に説明しました。この件、どうもすでに手続きがされていたようで、これは異議対象になっていて、shopはrefundには応じたのだけど、送られてきた金額が少なくて、PayPalとしてはfull refundを要求しているところで、進展については連絡し、full refundするからあとは何もしなくていい、とのこと。ほっとしました。

その後2時間くらいで、shopが責任を認めてfull refundに応じた、というPayPalの通知が来て、無事解決しました。PayPalとのやりとりは電話してからはとってもスムーズでした。ただ電話以外は全部英語で、日本語は、少なくともかなり時間がかかりそう。これでは英語が苦手な人はPayPalはやめたほうがよいかもしれません。

この香港のショップ、サイトをよく見ると、怪しさ満載なのです。そもそもメールのアドレスがgmail。ショップの名前もわからない。PayPal払いを前面に出していて、だから大丈夫といってるけど、そもそもそこが怪しい。このサイトを今見ると、確かに、11月30日まで発送できないと書いてあります。これは私が見たときにあったのかどうか。あればさすがに気がつくだろうとは思ったものの、いずれにしても購入の時点で警告するべきこと。

このサイト、素人の作りで、おそらくネットで保済丸を検索した人を引っかけるためのものでしょう。日本人だと、PayPalに紛争を依頼するようにと言われてもメッセージセンターでは日本語ではまずレスポンスがこないし、disputeしろといわれても泣き寝入りする人が多いでしょう。それを狙ってるのかな。さっさと電話すればいいのだけど、Paypalのサイトをまじめに見てるとその選択がなかなか出てきません。それにいかにもつながりにくそうだし。

サイトをよく見るべきでした。PayPalのおかげで解決できましたが、Paypalは審査はしてないのかな。ここは海外に行って保済丸を知ってネットで買おうと思った日本人が引っかかってそう。それとも私だけ?


2020年9月17日木曜日

4桁のパスワード

昔のパスワードは簡単な覚えやすいものにするのが普通でした。古き良き時代。とはいえ、オンラインATMでありながら昔ながらの4桁の数字パスワードが健在なのが、地方銀行などのオンラインアカウント。4桁だと、どれかの番号に誰かがいるので、いわゆるリバースブルートフォース攻撃されたら、誰かの口座番号がハックされてしまいます。案の定、ドコモ口座をはじめとしてPayPayなどもなりすまし利用が広がってきてます。こののんびり感は別格にしても、Pinではともかく4桁の数字が普通です。

ではどのような4桁数字パスワードが使われてるのか。調べた論文が出てます。ケンブリッジ大のComputer labからのもので
A birthday present every eleven wallets?
The security of customer-chosen banking PINs
という題名。

ここで使われたデータは主にRockYouというsocial gamingから2009年に流出した3千2百万件ものパスワードと、iPhoneの開発者が出版した20万件のデータに基づいてます。古いものになりますが、この論文の主旨とはちょっと違って、意外と下の図が面白い。

頭の2桁と後半の2桁についてプロットしたものがこちら。
もし完全にランダムなら、平坦になるはず。スポットや線などの何らかのパターンは、意図的なパスワードです。この頃はまだ、パスワードに1234を使ってる人が多いことが、(12,34)の濃いスポットからわかります。また斜めの線は、2525等、xyxyのパターンです。左下が濃いのは、前半に00から30まで後半は00から12までを使う人がなぜか多いということです。前半が19と20が多いのは、自分か子供の生まれた年でしょうか。

また後半に10、11、12を使う人も多いのは横の帯が示してます。だけど、2512から2552までの線は一体なんだろう?

あちこちにスポットがでて、かんたんなところでは逆連番の4321が結構濃い。9876もあります。こんなのとは違って謎めいたスポットのいくつかについて、ネットでその解明がされてます。5683はラテン語圏でloveの隠語、5452はタガログ語圏で愛してますの隠語、とか。なんなの?

今ではもっと平坦になって、スポットも帯も消えているのでしょうか。メモ無しで誰でも記憶できるPWだと、これくらいになってしまうのなら、やはり別のステップを入れる必要がありそうです。

2020年9月11日金曜日

シチュアシオン

「シチュアシオン」は、サルトルによる短い評論、小文集。人文書院が出してたサルトル全集の中にIからXまであります。これが唯一の邦訳かな。このIVを高校生の頃買って、ほとんど読みもしないまま、本棚に眠らせてましたが、半世紀経ってKobo Formaに収めていました。夜中、寝室の外で老ネコの遠吠えに起こされて眠れなくなり、がさごそと(比喩)Formaの中を漁っていて、ふとそのことを思い出しました。Formaを買ったのは7月でしたが、すでに100冊以上入ってます。とはいっても、さすがにそれだけこの2ヶ月で本を買ったわけではなく、キンドルにだけ入れてた本を移動したからです。

このIVを読んでみるとなかなか面白い。それで古本屋でIIIを探しだして自炊してFormaの中に。これは主に第二次世界大戦終結の頃の記録、どちらかというとエッセイです。かなり興味深い部分がいくつもあります。

 旗を掲げて祝えとは言われていたものの、人々はそうはしなかったし、大戦は、無関心と懊悩とのなかで終焉を告げた。

フランス人が旗あげて祝うわけないしなと思いつつ、

 日毎の生活で変わったところは何一つなかった。ラジオがいくらワンワン云っても、新聞が肉太の大文字でいくらかき立てても、我々を十分に納得させるわけにはゆかなかった。我々としては、できれば、なにか奇跡のようなもの、空に何かしるしのようなものでも現れてきて、平和が森羅万象の中にはっきりと刻み込まれたことを証明してくれて欲しかった。・・。人々は、橋も上を、街のなかを、慢性になった飢えと不安とで外のことは考えられずに、生気のない目をして、通っていた。空っぽの腹を抱えて、この大戦の終焉を、どういうふうにしてよろこんだらいいものか。

そして、日本に関する記述も。

 日本では内乱が起きる恐れがあるし、日本軍は満州で反撃に出るかもしれぬし、天皇とその将軍たちは近い将来報復すると言ってるし、シナは内乱の一歩手前に来ている。

そんな話があったんだ。日本国内での人々の捉え方と、おそらく大分違うのでしょう。私はあんまりこんな話は聞かなかったけど、確かに、海外からすると、そういう話も通りやすいかもしれません。

この本の第二部には、アメリカに滞在した頃のフィガロ紙に発表した記事がまとめられてます。はじめて接するアメリカ、NYについてのナイーブな感想が初々しい限り。こんなご婦人方の協会のことが書いてあります。

 ある建物の18階で、私たちは「紅茶茶碗をかこんで」、数人の、銀髪の、あいそのいい、少々冷ややかで、男みたいに知的な、名流婦人たちに会った。・・・ この連盟は今日では2万6千人の会員がおり、各州に300の支部を持っている。500以上の新聞が、ここの資料を受け取っている。政治家はここの出版物を参考にしている。この連盟はしかも大衆に情報をあたえることは考えていない。つまり報道者たちに情報を提供するのだ。

外交政策協会、というそうです。こんなことがあったんだ。フランスではありえないこんな集団のことを考えて、サルトルは、アメリカ人が

いかに組織力とはげしいアメリカ化の力に従っているか

について、そしてこれが、

 どうあろうとも、それはフランスにおけるような、個人主義ではなくて、その根底にあるのは画一主義である。

と結論。さすがサルトル。眠れぬ夜も、こういう発見があるからいいのかもしれない。

この恍惚とした爺さん顔、こいつのおかげか。

2020年9月1日火曜日

お米の無機ヒ素のリスクはどれくらいか

日本での食生活習慣として世界的にまともなところでよく取り上げられる懸念は放射能ではなく、お米に含まれる無機ヒ素。私はお米大好き人間なので、とても気になってきました。この前見たネットニュースで食品に含まれるアクリルアミドの問題点が指摘されていて、その中で、アクリルアミドはお米と比較するとリスクは遙かに低いという話がでていて、改めて調べてみました。講義のネタですが。

さすがに数年前に調べたときから大分進んでいます。お米は土壌中の無機ヒ素をよく取り込みます。まず基本的な数字として、標準的なお米に含まれる無機ヒ素の量は、お米(精米)一キロにして200μg、1合を150gとすると30μグラム。また、日本人はどれくらい無機ヒ素を摂っているかというのは研究があり、たとえば東大からでてる学位論文(小栗 朋子「日本人の無機ヒ素摂取量とその健康リスク」ではこのような分布をとるそうです。



無機ヒ素は発がんを起こすことが知られています。これはきれいな容量依存性があります。EFSAによると、1%の発がんリスクをあげるには一日あたり、私の(理想とする)体重70kgだと一日あたり21~560μg(95%信頼区間)の無機ヒ素をとる必要があります。

つまり、上の摂取量とこの1%発がんリスクの範囲がかぶるかというのを考えると、発がんリスクの分布が左右にひどく偏ったものでない限りは、日本人の摂取量で、発がんリスクを1%あげることは、おおざっぱにいって9割方なさそうに思えます。

これを気にして仮にお米をやめたとすると、他のものを主食代わりに摂ることになり、それが野菜でも肉でも、あるいはパンやパスタでも、健康リスク全体としてあげてしまうこともありえます。たとえば食パンで100gで1.3gの塩化ナトリウムなので、一日の塩分摂取量を結構おし上げます。

つまりコメかパンかということになると、無機ヒ素10~20μgか塩化ナトリウム1.3gか、どちらのリスクをとるかということになります。私にはご飯のほうが健康リスク全体を考えればシスクは低いようには思えます。とはいえ、欧米では子供にはお米は主食にしないよう、提言がなされてます。これは、2016年にFDA、米国食品医薬品庁によって出された検討結果にまとめられています。こちら
https://www.fda.gov/files/food/published/Arsenic-in-Rice-and-Rice-Products-Risk-Assessment-Report-PDF.pdf

長くて全部読めるものじゃないですが、ポイントはこの表あたりでしょうか。

無機ヒ素ではとくに膀胱ガンと肺がんが増えるようです。これは100万人で生涯に(上2行)、あるいは子供で(下2行)どれくらいこれらのガンになるかを示しています。コメの2つの種類、またヒ素を減らした炊き方(コメと水を1:6にして炊いてその水を捨てることで60%のヒ素を減らす炊き方)をした場合、どれくらいガンが減るかを予測したものです。そもそも後者の炊き方、私としてはやめてくれ、といいたいのですが、たしかにヒ素が減ればガンは1/3近くまで減るらしいことはわかります。

ただし、それよりも大事なことは、1万人に一人ガンになるくらいのリスクをどれくらい考慮すべきか。それによるベネフィット、あるいはコメを摂らない場合に代わりに摂る食物によるリスクも考慮されないといけません。

FDAでは、妊娠した女性、子供においては、コメだけを主食にとるのではなく、多くの食物を摂るようにという提言をしてます。概ね、欧米ではこういう提言がされてるようです。だけど、上のように考えたとき、どうしても自分たちの文化を優先するのはどの世界でも同じかと思ってしまいます。結論として、あんまり心配するようなことではない、というところに落ち着きそう。そういえば、私の父親はイネの研究者でしたが、元気だった頃、大分前にそんなこと言ってたのを思い出します。とはいえ、イネの品種改良では、無機ヒ素の取り込みを減らした品種を作ってほしいものです。

2020年8月29日土曜日

アルツハイマーの新薬、疑惑

去年の暮れに出ていたアルツハイマーの2つの新たな治療薬の件、前のブログに書いてました。こちら。
http://paidevali.blogspot.com/2019/11/blog-post_7.html

この記事にはアクセスが多く、また私も気になってました。調べたところ、新たな情報が新型コロナの中に埋もれてました。この記事で書いたOligomannateが米国で治験になったという話。4ヶ月前に出てました。
  https://www.beingpatient.com/seaweed-alzheimers-drug-clinical-trials-oligomannate/
アデュカヌマブについては日本での進展が報じられる中、遙かに安そうなOligomannateの続報がないかなと検索して、私の見てる医療系のニュースサイトでは出てなかったので気がつきませんでした。こちらには出てます。
https://response.jp/release/kyodonews_kaigai/20200428/66456.html

そしてさらに、検索してると、7月には待望の中国でのPhaseIIの治験の結果がpreprintサーバーに出てました。査読中と思われます。
https://europepmc.org/article/ppr/ppr184086

一日600、900mg(それぞれ、150mgのカプセルを2つ、3つとあるので量は半分になるはずだけど、1日2回なのかな)のoligomannate (GV-971)と偽薬を軽・中度のアルツハイマーの患者に24週間投与して、結果は統計的に有意ではないが効く傾向にあるという内容。これは希望が持てるとは思ったのですが、この治験が行われたのは2011年10月から2013年7月。ん?たしかに、そもそも中国国内では既に条件付きとはいえ使われてるはずで、となると、PhaseIIIも済んでるはず。

どうも妙な気がして、さらに調べました。すると、この記事。
https://www.sixthtone.com/news/1005912/neuroscientist-speaks-out-against-chinese-alzheimers-drug%2C-again

7月にSIX TONESという中国の非政府系メディアから出ている記事にたどり着きました。これによると、北京にあるCapital Medical Universityの学長Rao Yiという著名な学者(と書いてある)が、この一連の研究について、疑惑があり調査すべきである、という主張をしていて、すでにNational Natural Science Foundation of Chinaに調査をするような要請を行ったとのことです。

彼の疑念は、このoligomannnateの薬、GV971に関する一連の12報の論文と、上のブログで紹介したCell Researchの論文が一貫してない、ということと、この薬の効き目が彼らの云うような広範囲な作用の結果によるものならば、もっといろんな副作用が起きるはず、ところが、彼らの論文では有効な作用しか書かれていない、という2点のようです。

具体的ではないですが、これらの疑念は確かに、この話の全体に感じるものでもあります。これに対する他のレスポンスはなかなか見つけられません。アルツハイマーの新薬というのは世界中が待ち望まれています。唯一、これ以外にあるのが今進んでいるアデュカヌマブ、日本ではエーザイが動いています。だけどかろうじて効くのかどうかくらいで、ものすごく高いことは確実な薬。

アルツハイマーには世界中で膨大なお金がつぎ込まれ、多くの薬が登場しては消えてきました。このOligomannate、GV971は2003年以降ではじめて(限定付きとはいえ中国で)承認されたアルツハイマーの薬。国としても期待するでしょうし。それにこれは海草からの抽出物で圧倒的に安い。42カプセルで128ドル。一日6錠使うのなら高いですが、それでもアデュカマブとは比較にならないでしょう。副作用がないのは確かなようなので、多少でも効く可能性があるのならいいのかもしれません。もしかしたら、アデュカヌマブ程度には効くのかもしれない。おそらく、そういうことすべてを踏まえての米国FDAからの承認のはず。

だけど、がっかりです。どうかなあとは思いつつも、期待の新薬ではあったのに。この疑惑は重く、フォローが必要です。

追記 2021/06/12
アデュカヌマブの条件付きの承認で治験がはじまりました。実はこの記事の3ヶ月後には、上に書いたGV971の米国FDAでの米国・ヨーロッパでの治験が承認されてはじまっています。こちらに書きました。https://janushons.fc2.net/blog-entry-35.html

2020年8月27日木曜日

スプートニクの恋人

夜中に目が覚めてkobo formaを取り出したものの、あいにくそのとき読んでたのがカポーティの「誕生日の子どもたち」で、つまらなくて断念したばかり。カポーティってこんなにつまんなかったっけ、次は何を読もうか、と考えつつ、眠りに落ちたところでした。Formaの中にはまだあまり本を入れてないのだけど、村上春樹のいくつかは読み直そうといれてました。では、と「ねじまき鳥クロニクル」を開いたものの、あんまりこれはそんなときに読むものじゃない。

ではと「スプートニクの恋人」を開きました。これはなにかとてもいい。1回目に読んだときも思いましたが、これは長編だけど、ねじまき鳥とは違って割とすんなり書けてさくっとできたもの、ではないかと。

不思議なくらい、こんな目がさえた夜中にはまります。その夜のあとも読み続けて数日で終了。

この小説、たぶん、キーとなるのは最後に出てくるこの部分。万引きした子、あろうことか学校の先生である「ぼく」が逢い引きを重ねている母親の子供であるにんじんくんを連絡を受けて引き取って喫茶店に入り、ひとことも話そうとしない彼を前にして、こんな話をします。

ひとりぼっちでいるというのは、雨降りの夕方に、大きな河の河口に立って、たくさんの水が海に流れ込んでいくのをいつまでも眺めているときのような気持ちだ。雨降りの夕方に、大きな河の河口に立って、水が海に流れ込んでいくのを眺めたことはある?

答えるわけもないにんじんに、こう続けます。

たくさんの河の水がたくさんの海の水と混じりあっていくのを見ているのが、どうしてこんなにさびしいのか、ぼくにはよくわからない。でも本当にそうなんだ。

妙に無駄な繰り返しの多いこのフレーズ、この物語の底辺に流れているのは、こんな感覚。

奇妙な、だけど実はとても大事だった女友達のすみれがギリシャで急に失踪してしまい、彼女を探して小さな島にまで、すみれが憧れを抱いている同室だった先輩、ミュウに会います。そこで彼女が語る、「泣こうとして泣けないでただ体を震わせている」すみれを抱き寄せたとき、感じたことは

さびしくて怯えて、誰かの温もりをほしがっているのだ。松の枝にしがみついている子猫のように。

こういう物語です。とくにいくつもの彼らしい気の効いた表現が秀逸です。たとえばこんなの。

ペテルスブルグ行きの列車がやってくる前に、年老いた踏み切り番が踏切をかたことと締めるみたいに。

そういえば、すみれは文章を書きます。いくらでも書くことができる、だけど、それは

ときどき、異なった趣味と疾病を有する何人かの頑固な婦人たちが一堂に会して、ろくすっぽくちもきかずにつくりあげたパッチワークみたい

なもので、ひとつも小説にはならない。そんなすみれに、「ぼく」はこんな中国の門の話をします。

人々は荷車を引いて古戦場に行き、そこにちらばったり埋もれたりしている白骨を集めれるだけ集めてきた。歴史のある国だから古戦場には不自由しない。そして待ちの入り口に、それらの骨を塗り込んだとても大きな門を作った。慰霊をすることによって、死んだ戦士たちが自分たちの街を守ってくれるように望んだからだ。でもね、それだけじゃ足りないんだ。門が出来上がると、彼らは生きている犬を何匹か連れてきて、その喉を短剣で切った。そしてそのまだ暖かい血を門にかけた。ひからびた骨と新しい血が混じりあい、そこではじめて古い魂は呪術的な力を身につけることになる。そう考えたんだ。」
すみれは黙って話の続きを待っていた。
「小説を書くのも、それに似ている。骨をいっぱいに集めてきてどんな立派な門を作っても、それだけでは生きた小説にはならない。物語というのはある意味では、この世のものではないんだ。本当の物語はこっち側とあっち側を結びつけるための、呪術的な洗礼が必要とされる」
「つまり、わたしもどこかから自前の犬を一匹見つけてこなくちゃいけない、ということ?」
ぼくはうなずいた。
「そして温かい血が流されなくてはならない」

これが生きた物語、どこかで犬が連れてこられて温かい血が流されたのかもしれません。さくっとできたように見える、と勝手なことを読者はいうわけですが。

物語というのは不思議なものです。特に村上春樹のを読むと、そのことをいつも考えます。夜中に目が覚めるのは、そんなに悪いことじゃないかもしれない。


老ネコでも追加しておこう。

2020年8月22日土曜日

Tolånga

Tolånga は、スウェーデン南部の村。14世紀、猛威を振るった黒死病、ペストによって人々が死に絶え、滅びかけた村のなかで、二人の異常に背の高い男性が生き残り、この村を再建したという伝説があるとか。いわゆる巨人伝説の一つなのでしょうか。

この地方に伝わるポルカを元にした曲を 232 Strängar という、スウェーデンのピアニストとバイオリニストの女性デュオが演奏してます。
https://www.youtube.com/watch?v=i-3ldKxA1kI

エストニアのラジオ局、KlassikaradioにFolgialbumという番組があり、外国の音楽を紹介しているので、よく聞いてますが、ここで彼女らの2つめのアルバム、Pillikud - Metsaunelm(葦/森の夢)が紹介されてました。何気なく聞いてましたが、次第に聞き惚れてしまいました。

これは5月に登録されていて、画像は家でポルカを踊るいろんな人たちです。おうちで楽しく、という、この頃よく作られた動画で、これを見てるとなんだか誰かが犬を抱いてるシーンを思い出すのであんまりぞっとしないところもあるのですが、この画像の素直さは、そんなことを払拭させてくれます。

人は、すべて生き物と同じく、自らの生存を脅かす他の生き物とずっと闘ってきました。しばらく忘れていましたが、我々人間もその宿命から逃れられません。黒死病が荒れ狂い、ヨーロッパの多くの街を滅ぼしていた時代、人々の恐怖を思います。ものを燃やして暖をとるしかない、水で流してくれるようなトイレもなかった時代。病原体がなんなのかもわからないまま、周りの人たちが次々に倒れていく、その恐ろしさがどれほどのものだったか。

そして、その恐怖から生き延びて、なんとか封じ込めてしのごうとすることを長く続けてきた人々の努力。この二人の音楽はそういうことを思い出させてくれて、心震えるものがあります。

2020年8月15日土曜日

黒ヶ丘の上で

これは、第二次世界大戦前からインベーダーゲームが登場する時代まで、ウェールズの田舎の丘の上の農場で生涯を過ごし、心の深いところでつながっていた双子の兄弟の物語。「パタゴニア」という魅惑的な紀行記を書いたブルース・チャトウィンによる三作目です。

「パタゴニア」の印象があまりに強いためでしょうが、あんまり面白くないかも、と思いつつも、なにか惹かれるものがあり、日課的に最後まで読んでました。

たとえば、双子のもう一人の兄弟だった姉が、家を飛び出してアメリカに渡り、消息がなくなったあと、その娘、つまり双子の姪がその息子を連れて、自らの故郷を探して貧困の中を黒ヶ丘にたどり着く。そこでクリスマスの日に、その二人に会わせるために息子のケヴィンを連れてきた教会の中の、何気ない描写。

ホールの中は震えるほど寒かった。パラフィンストーブが2台しかないので、後列のベンチまではとても暖まりきらなかった。すきま風が扉の下からヒューヒュー吹き込み、床板は消毒剤の臭いがした。観衆はマフラーとコートにくるまって腰掛けていた。アフリカでの伝道を終えたばかりだという説教者が会衆ひとりひとりに握手をして回った。

ごくありきたりの光景、チャトウィンが好きなのはこんなところ。パタゴニアでもそうでした。だからなんなのか、そもそもこの物語は一体何の意味があるの、と思いながらも、だけど読まざるをえない、そんな小説。

娘を追い出したことを父親のエイモスは深く後悔していて、事あるごとに妻のメアリーに爆発します。この二人の関係は微妙で、読んでいると一体メアリーはエイモスを愛していたのかどうかもわからなくなります。このあたりのわからなさ、人の心の漂う感じも、この物語の不思議な魅力の一つなのかもしれません。つまり、面白いと思ってるわけですが。

娘を思って悲嘆に暮れるエイモス。

おびえた子供が人形にすがりつくように、彼はメアリーにすがりついた。だがメアリーは夫の問いかけにどう答えたらいいのかわからなかった。

チャトウィンの人生はその輝く才能をほしいままにしたように見えます。でも、彼は50を迎えることなく生涯を閉じ、残された作品はあまり多くありません。最初に発表したパタゴニアがあまりに素晴らしく、これがもしかすると、実は重荷だったのかもしれない。他のも読んでみようかな。

2020年8月7日金曜日

ACE2受容体は健康な肺にはほとんどないらしい+ワクチンの話

COVID-19ウイルスが結合するとされるACE2分子は肺など呼吸器に発現してるとばかり思ってました。ところが、Molecular Systems Biologyに今回発表されたスウェーデン・Uppsala大の詳細な研究によると、実は気道~肺にはほとんど発現してないとか。
https://www.embopress.org/doi/full/10.15252/msb.20209610

ではなぜこのウイルスが呼吸困難を起こすのか?ウイルスは確かに感染者では気道下部にある肺胞II型細胞に多く見られます。ACE2受容体は、実はウイルス感染すると急に発現が増えるようです。これはインターフェロンによって起こされ、これはウイルス感染そのものによって起きると、彼らは考えています。おそらく上気道のACE2受容体にウイルスが少しついて、そこでインターフェロンを出させてACE2受容体を激増させ、ウイルスが肺の中にどんどん入っていく、というイメージでしょうか。この辺はこちらの紹介記事の方がわかりやすい。
https://www.embopress.org/doi/abs/10.15252/msb.20209610

問題は、一体、インターフェロンは治療に使えるものなのか、あるいは逆に危険なのか。結果的には、先に書いたように、たとえば武漢での医療人へのインターフェロンの鼻からの噴霧が有効と思われる結果などでいいような感じですが、逆に、実は理屈からいくと、また、マウスの実験
https://rupress.org/jem/article/217/12/e20201241/151999/

では、逆に、悪いはず。理屈、というのは今までの知見に基づいた、という意味なので、単に知識が足らないだけという事もあります。だけど、ここまで逆になるのは珍しい。このウイルスの謎の一つです。


ところで。英国のアストラゼネカ/oxfordから1億本以上のワクチンを供給してもらうという契約を日本が結んだとかいう話がでてます。これは組み替えアデノウイルスを使うタイプです。これまでこのような遺伝子組み換えウイルスがワクチンとして使われたことはありません。国全体で臨床試験をやるつもりでしょうか。普通ならこの種類のがワクチンとして認可されることはないはずなのだけど。

ワクチンの場合、そのリスクがどれくらいなのかの判断はとても難しく、短期的な安全性はもちろん確認できてもそれが長期的に有効か、安全なのかは長い時間がかかります。それで今回やってしまえばわかるだろう、ということなのでしょうが。

一方で米国のモデルナ/NIHが進めてるタイプは、前も書いたmRNAで、これもこれまで使われたことはないですが、理屈の上では一番安全性が高い。ファイザーもこちらのを作ってます。

ただ、ワクチンとして一番安全そうなのは、従来からのワクチン開発で行われてきたように、不活性ウイルスを用いるもので、これは中国が先を行ってます。ワクチンをうつならこちらだな。だけど、自分ではうたないと思いますが。

2020年8月3日月曜日

サラの鍵

フランスの作家、タチアナ・ド・ロネによる「サラの鍵」、2006年に書かれた小説です。読むのが辛い、だけど夜更かしして読まざるをえない、久々に巡り会ったそんな本でした。但しこれは前半の話。二つの時間を交互に描くスタイルが終了して、一つの今の時間になる後半では、次第に緊張感も薄れ、割とありがちな話になって、最後は流し読みでした。

この前半の緊迫感はすさまじく、村上春樹のねじまき鳥クロニクルの、あの辛くて、おぞましい、しかし、目を背けることの許されない厳しさを思い出しました。驚くべき史実です。1942年、ナチスの傀儡政権が誕生したフランスで起こった13152人のユダヤ人の虐殺、しかもこれは自分の国内で行ったのではなく、屋内競技場に集めてそこからアウシュビッツに送ったという卑劣さ。わずかに生き残った子どもたち、ヴェルディヴの子供、として、1995年になってシラク大統領の演説によって、戦後長い時間が経過した後になって全容が明らかになったとか。

まったく知らなかった。フランス人である自らの責任を追求する気持ちもあっての厳しさなのでしょう。そういう点でも、ねじまき鳥クロニクルによく似ています。毎日顔を合わせて挨拶をしていた警官が、競技場の監視員になってしまう、非情。ですが、これが唯一の救いをもたらし、だけど、そこから描かれる残酷な結末。

どこまでが史実なのかは知りません。だけど、これは基本的に、本当にフランスで起きた、おそらくフランス史上で最悪の犯罪。あれだけ個人主義の強い、画一化を嫌う民族の国でこんなことが起こったことにつよい衝撃を受けました。

ただ、この作家は、村上春樹とは違って、基本はジャーナリストなのです。史実から起こした前半のレアリズムはものすごい。これはノンフィクションに近い書き方。これにはどこかエミール・ゾラを思い出しました。だけど、それが、おそらく創作だけの後半の部分になると、村上春樹のように想像力がさらに羽ばたく、というわけにはいきません。これは残念。

なぜひとはそうなってしまうのか。そして、なぜそれをなかったことにしてしまうのか。我々は、いつもそのことをどんなときでも問い続けないといけないのです。

2020年7月24日金曜日

座椅子をめぐる攻防 +追記

ふと見たら、狭い座椅子にネコ二匹。


ここは本来、茶ネコの定位置。少し前に、白っぽいネコが落ち着いてましたが、どうやら、味をしめて私の場所よ、という主張をはじめた模様。


いつもように茶トラが座椅子でくつろいでいると、強引に押し出そうとする妹ネコ。困ったような顔した茶トラですが、できたネコなのでなかなか怒りません。


このあと茶トラはだまって平和裏に出ていきましたが、さすがに限界もあり、戦闘状態になることもあります。これを人が寝てるときにやるから、寝てる方はたまりません。怒った女房がとった処置。


座椅子が横倒しに。たしかにこれで争いはやみましたが、これでいいのか。。。

あきらめてもう一つのぴったりサイズのベッドに収まる茶トラ。


最初からこれに寝てろと。



後日談
ふと気がついたら茶トラが横になった座椅子を見ています。ピンぼけですが。

まだ見てます。

なぜだろうと。

なにもいわずに、少し離れてもじっと見てます。


悲しい顔であきらめて。

飼い主はこの無言の訴えを撮影して施設管理責任者に見せて交渉したところ、後日、無事に座椅子があるべき姿で置かれるようになり、茶トラの正しい寝場所が回復されました。今のところ、白っぽいネコの攻撃は受けてません。

2020年7月23日木曜日

「感受体のおどり」 ふたたび

「さざんかが咲いていた。花に名があるということになぐさむのをかんじた。伸びつのる脚に海は近く、晴れておだやかな波おとに白とべにのしぼりが優しかった。」

以前のブログで黒田夏子の「感受体のおどり」について書いたら、なぜかそれへのアクセスがずっと地味に続き、今だにアクセスされつづけてます。前のブログの大部分は公開終了にしたのですが、これは残しました。しかし、なんでこんなにマイナーな話にアクセスがいつまでも来るのか、感想文の対象にするような本でもないし、レポートにぱくられてるのでしょうか。それとも、学生さんの卒論のネタ調べ?

なんでもいいのです。この、日本の文学史上で希有な輝きを見せる、ほとんど奇跡のような作品が、ものすごい出版物の中でも埋もれることなく、人の記憶に残るのならば、それはうれしいこと。冒頭は、「うしろからの足おとにーーー」と題された章の第42番の頭の部分です。

まったくなんていう丁寧な心の記述!こんなに簡単にブログで書いてしまって良いのかとも思うほどの文章です。書いてますが。

冒頭に続く部分、

「 ずっと小さかったある宵の食卓で、だいこんの切りかたにいちょうだのせんろっぽんだのと名があるのをおとなたちの会話に聞き知って、ひそかになぐさんだのをおもいだした。だいこんという名だけでなく、きりかたまでがこまごまと名づけられていることの安らぎが、朱ぬりのわんのへりの温かな光沢とともにおりにふれてよみがえった。うらがえせば、事物があまりにも捉えどころなく過ぎていくという不安な悲しみに耐えなければといつも身がまえていたので、どんなわずかなぶぶんでもことばによっておぼえたりつたえたりできる領域がひろがるとなぐさんだのだ。」

この42番の前にはこんなところもあります。先生に連れられて絵を描きに海の見えるところにいったときの記憶から、

「捨ててしまったものは、野ふじのひとちぎりだけではなく、踏みしだいた草の匂いだけではなく、小とりやなかまたちのさざめきだけではなく、おちつけばかすかにつめたい初秋の風だけではなく、みえないうしろではなくよこではなくて上ではなく、見えている至近のものでもあるのだった。それでいていままでのならわしどうりに描いているほうがやがてまわってくる教員をやりすごすには最もらくなのだと私はもうわかっていたし、なかまたちが、組でゆびおりの描き手である嵐犬もふくめてやはりそうしているだろうともよくわかっていた。しかしこんなふうにほとんどなにもかもを切り捨ててしまった世界のかけらを模すという作業を、おとなたちが、みわたされた方法の体系の順当な過程として意図してしつらえているのかどうかは判じあぐねた。・・・・ (中略)
 しきりに暗いとおもった。まだ暗いと、おもいもかけず暗かったと思った。私にとって絵はそれほど重いいみをもたないもののようでもあるが、ことばで書く作業でもほとんどなにもかもを切り捨ててしまっていること、明確な根拠や選択からではなくてただそうしてでもとりかからなければはじめられないためのまにあわせに種族のならわしを借りただけのきわめてあいまいな出発であることを、野ふじの葉が、絵ふでをうごかしているじぶんの手が知らせてよこした。・・・」

おおよそ、日本語の極みです。前も書きましたが、これはほとんど源氏物語。黒田夏子が生涯をかけてひたすらに続けたこの作業の根底には、おそらく42番の上の引用に続く、下に記された思いがあるのでしょう。

「 物に名があるとはじめて知った日の記憶はない。ことばをもつまでのあいだ、ことばのない不安があったのかどうかの記憶もない。しかしもちはじめるや、たりなさは重くつもった。ことばにしないことは喪うことだとかんじられてそそりたてられるようにじれた。いのちがさかっていたので、無は小さな寂しみのつぶてを投げかえしてくるだけだったが、それは比喩ではなく、死そのものののかけらだったろう。」

無は小さな寂しみのつぶてを投げかえしてくるだけだった、子供の頃の記憶。たぐりよせる黒田夏子の丹念な作業は、なにか、とても大切なのです。

2020年7月18日土曜日

core i7 6700kを使って

これも備忘録。棚に積んでたH370というASUSのマザボが2つと、core i7 6700kというCPUの1つ。学生がデータベースとして使いたいといってきたので、組み立てたら起動せず、調べたらこのマザボは8000台以上のCPUでないと対応してないことが判明。紛らわしいことにこのCPUは型としてはLGA1151でぴったり入ってしまう。仕方なく、中古のマザボで6700kにあうのを探したところ、H170 Pro4sというのが7000円くらいで出ていたので購入。逆にマザボにあうCPUを探すと、安いのが見つからないので。

OSは、以前、PCを入れ替えて使ってなかったWindows7proのDVDがあったので、これで500GのSSDに新規OSをインストールしたところ、あっさり立ち上がりました。次にMicrosoftのサイトからWindows10へのupgradeソフトをダウンロードして、version upに成功。今では公式にWIndows10へのアップを認めてるのですね。

ただ、かたかたいう音が耳障りで、これは、CPUファンにつけてる水冷のクーラーではなく、電源ユニットのファンから来ていることが判明。そこで一番安い電源ユニットを買って、5000円くらいでしたが、取り付けて静音化。これで24時間オンにできるPCができました。


そのあとで
芸能人のニュースには疎いのですが、三浦春馬が自ら命を絶ったらしいという速報に、聞いた名前、と思って、コメント欄を見ると、やはりNHKの「世界はものに溢れている」だったか、そんな名前の番組でいつも見てた俳優さんでした。女性のほうがあんまり好きでないのだけど世界のあちこちのものがでてくる内容と三浦春馬の素直さで、また時間帯がいつも家に帰ってテレビをつけるときなので、割と良く見ていました。

恵まれた容姿と素直さ、人気の高い俳優で、誰もがうらやむ人生のよう。でも、それは、本人にとっては実はあんまり生きるよすがにはならないのかもしれません。俳優の場合、イメージは作られるので、乖離が必ず起こり、実は自己表現ができてない、ということも。

だけど、死ぬのはいつでもできること。この世に生まれたのなら、すべての可能性を試さねばならない、キリスト教者なら、それが生きるものの務め、と間髪をおかずいうでしょう。だけど、そういう理由をもたない我々、無宗教者はどう理由付けすればいい?サルトルのいうように、それは人間には自由を求める能力が与えられているから、でしょうか。

Philip Glassのバイオリン協奏曲、クレーメルの演奏が、たまたまつけていたエストニアのラジオ局から流れています。我々はどうこたえられるのか、いつも考えこみます。

2020年7月11日土曜日

オルベスコの治療効果 追記 インターフェロン点鼻薬

喘息の薬、オルベスコ(シクレソニド)はすごく効いたという3名のCOVID患者の治療結果が出たのは3月。国内では、何カ所かで良く使われていたようですが、世界的には米国、カナダなどで臨床試験にようやくはいったくらいで、made in Japanだからか、あまり調べられてません。

まだかなあとネットで調べたところ、待望の他施設による結果が出てきました。聖マリアンヌのグループです。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S016817022030753X
幸か不幸か、患者数が日本では十分になりませんが、それでも充分、参考になりそうです。まず彼らは重症になる患者ではリンパ球数が低下することを示し、これを指標としてシクレソニドの効果を見ています(もうちょっと、ちゃんと書けませんかねという気はしますが。)

こちら。左が投与してない患者11名の変化。
preproofで正式な出版前なので、図の後ろにその旨を示す表示がありますが、査読された論文です。右が投与した7名の結果です。一人一人の変化を線で表しています。リンパ球数が低下した患者ではシクレソニドは全員に効いてリンパ球数を回復させています。

この話が3月に出た頃には喘息の患者でこの薬を必要としている人がいるのでと学会が警告を出す事態にもなりましたが、その後、供給体制は確保されたようです。

シクレソニドはウイルスの複製を阻害し、つまり基本的な懸念の消えないアビガンと似たような作用があるようです。なるほどステロイドで、ATP等とは似ても似つかぬ形ですが、ともかくRNA複製酵素に結合するのかな。


おそらく本来のステロイドのプロドラッグとしての作用である肺炎を抑えることも、治療に効果があるのでしょう。これらの作用があわさって結果的に回復が認められてるのではと思います。こちらは心配するような副作用はほぼ知られていません。

いずれにしても、この論文でもできるだけ早期に投与することが強調されてます。やはり、前からの方針通りに、私らとしては、コロナをつぶして喉の炎症を抑えるアズレンでうがいをして、怪しいと思ったら、カモスタットメシル(フォイパン)を舐めて細胞への侵入を防ぎ、オルベスコを吸入してウイルス複製をブロックすることにします。


追記
インターフェロンβ1aの吸入によって、COVID19入院患者の重症化率が78%減った、但し、偽薬との差はあんまり大きくない(p=0.046)、また、入院中の快復率は偽薬に比べて4倍高かった(こちらはもっとはっきりしてるらしい)、という二重盲研による厳密な臨床試験の結果が、英国の企業から公表されました。
https://www.globenewswire.com/news-release/2020/07/20/2064231/0/en/Synairgen-announces-positive-results-from-trial-of-SNG001-in-hospitalised-COVID-19-patients.html
101人の結果なので、統計的な力が弱いのはやむをえないですが、この結果は、他のセンセーショナルなのよりもよほど信頼が置けます。また、副作用の心配がまず要らないのも心強い。同じ試験は、米国においてもちょっと規模を大きくして行われてます。

追記の追記
この話、さらに関連情報が出てます。中国の湖北省のTaihe hospitalで医療従事者2415人全員にインターフェロンを毎日4回点鼻投与したところ、その投与の28日間のCOVID-19感染はゼロに抑えられました。こちらがデータ。

ただこのグラフ、ミスがあるようで、Wuhan medical staffのconfirmed caseの列が0なわけがありません。それで、この列は無視するとして、武漢以外の他の湖北省の病院では400人近くに感染が起きています。これにたいしてインターフェロン点鼻薬を使った医療従事者では0と完璧に押さえられてます。

すごい効果に見えますが、逆の可能性もないわけではないので、まだ予防として世界中で用いるにはエビデンスが不足してるかもしれません。だけど、個人的には使いたいところです。だけど、人用のインターフェロン点鼻薬なんて、手に入らないしなあ。



BIOS更新とビデオボード交換

忘れないうちに。震災以降使ってた大きな顕微鏡の操作に使っているPCというかワークステーションでHPの0AEChというモデル。メーカーさんとやりとりして開発したマクロのために、OSをWindows10にあげれないのですが、ネットに繋がないにしてもなにやらこのところフリーズが多い。マウスがつまずく、キーボードが動作しない、等、どうも怪しい。一応、まったくおなじPCをeBayでみつけて買ってあるので、どれが壊れても、パーツを差し替えればいいようにはしてます。ただ、装置の操作につかうPCIボードだけは心配ですが、これは壊れないかな。

ともかく使いにくくなってきたのでBIOSを検討したところ、やはり古いままでした。そこでBIOSをネットで調べてupgradeして、2018/03/05に出た最終versionのver3.61にあげました。USBメモリをDOSでフォーマットして、これにダウンロードしたBIOSを入れて、立ち上げてこのversionを読み込ませるだけ。どきどきしましたが、何事もなく立ち上がり、まったく何の異常も起きず、一安心。

多少は安定したかな。様子を見て、だめそうなら、マザボを替えます。ともがく、ぎりぎりまで引っ張ります。

これとは無関係なはずですが、ビデオボードがおかしな音を立てるようになりました。明らかにファンの異常で、これは交換するしかありません。みるとNvidiaのFX580、500Mしかメモリないタイプですが、今でも売ってます。だけどさすがに2万近くはするので、中古を探したところ、何とヤフオクにいくつも出てるという。。しかも即決価格が800円という出品があったので、3秒考えて、落札しました。減るだろうと覚悟してたボーナスも出たし。というほどの出費でもないですが。

なぜこんなに安い値段で出されたのか知りませんが、ありがとうございました。これが到着するまでの2日間、脇に置いた0AEChからビデオボードを抜いて使ってましたが、こちらはシングルモニター用でちょっと使いにくい。使ってた研究者からも、普段いかに贅沢してるかを感じましたといわれてしまう始末。

幸い、ヤフオクのはすぐに送って戴いたので、刺してドライバーをNVidiaから落として、再起動したら、何事もなかったようにダブルディスプレイが復活しました。えっと、書いてもいいかな、これはFX580として出品されていましたが、ついたボードを見ると、FX2000。これはFX580より上位のボードで1Gメモリです。なにか勘違いされた模様。こちらとしてはありがたく頂戴しました。こんなところは見られないでしょうが。

備忘録。あとになると、この情報が役立つことがあります。

2020年7月10日金曜日

Kobo Forma を買ったという話

結局、買ったのは Kobo Forma にしました。これはないと初めは思ったのですが、先に書いた中国の7.8インチeInkリーダーは、ノートがついてる分、重くなってます。この重さは結構大事なポイントで、ほとんど夜中に寝っ転がって読むので、数十グラムでも大きい。そもそもノートは、LikebookのMimasでもついてますがまったく使いません。メモは紙のほうが良い。

また中国の2つのはアンドロイドでGoogle playが使えていろんなリーダーアプリが使えるという話ですが、Mimasでやってみると、ろくなリーダーはなく、結局Mimas本体のリーダーを使ってます。またブラウザやメールを何もこれでやる必要はないわけで。

もう一つ重要なだったのは、8インチである事。つまり0.2インチだけ大きい。ほんのちょっとでも大きい方が良い。それにマニュアルがダウンロードできたので、操作の確認ができました。

というわけで注文したところ、すぐに来ました。まず、起動すると楽天にログインしないと先に進めません。やりたくないけど、これを一度やれば、あとは、wifiを切れば良いだけです。早速、PCにつないでスキャンした自炊本を入れて読んでみました。操作はKobo aura oneと同じで、本はChainLPで.cbzにしたものを、Formaのストレージのルートにおきます。すると、ライブラリの中に入る仕組み。

左がAura oneで右がForma。一見、Aura oneの方が長く見えますが、これはベゼルが長いだけで、表示画面ではAura oneが15.2cmで、Formaは15.6cmと、4mm長い。特徴的なのがページ送りボタンですが、左側においてます。この左のベゼルの部分は滑らないゴムのような素材で、持ちやすい。このボタン自体は使わず、Aura oneと同じ画面タップを使うように設定しましたが、この左のベゼルの部分は持ちやすく、ボタン使わなくてもなかなかいい感じ。

本を読むことにしか使わないわけですが、操作自体は同じでページ送りも同じくらいの速さかな。大事なのは軽さで、197gと、230gのaura oneよりも33g軽い。わずかですが、長い時間になると、それなりの差になります。

唯一の難点は、電源ボタン。こんなにしなくてもいいだろうにというほど重くて押したかどうかがはっきりしない。ランプを見ないとわからないという。そういえばAura oneもそうでしたが、輪をかけて使いにくいボタン。鞄の中に入れて間違ってオンになることを避けようという意図はわかりますが、普通はカバーをつけるだろうからそんなの必要ないのに。

と、大きな喜びもない変わりに、ちょっと進化と、新たな書庫ができて、ちょっとうれしい。実質28G入れられるので、再び1000冊は入りそうです。

追記
Aura oneでは禁則文字があり、たとえば、ユダヤ人、というのをファイル名にできませんでした。これが、Formaでは修正されたようです。さすがに。
新たにKoboを買ったら500円割引が楽天でついたので、これではじめて楽天で電子ブックを買いましたが、キンドルと同じでやはり読みにくいし、ぱっとしない。写真はちゃんとしたレイアウトにならないし。これは以前からちっとも改善されない。やはり物理本を買って、自炊してChainLPでBoldにして表示させないとダメです。おまけに、この電子ブック、画面タッチでページめくりをする設定がページの前と後ろが逆になっているという始末。ページ送りボタンを使うしかないというお粗末さ。あんまり本気で作ってないのかな。

2020年7月6日月曜日

次の電子ブックリーダー

楽天から買ったKOBOのAura one、コミックeditionなので32Gのタイプ、ふと気がついたらちょうど1000冊になりました。この画像のライブラリの下に小さく出てます。


2018年3月にこのeInkリーダーを買って、すぐに満杯になるだろうと思っていたら、ファイルのスリム化、そしてでかい本はLikebookのMimasに移行させて、本棚の自炊は忙しくて中断してたら、意外と長持ちしました。まだ4G空きがあるけど、安全のためにこの辺で新しいのを探した方が良いかな。ちなみにChainLPでpdfをcbzに変換してますが、最終的に、詳細設定はこうなってます。画像のタブの中、色深度は

2bitで充分という結論。

本体の部分はこちら

本の状態によってガンマ補正を入れることもあります。

だけど次は、と考えてしまいます。KOBOの7.8インチリーダーの後継機というと、女房に取られた8Gのaura oneと同じものをまた買うか、formaしかないですが、formaは見開き用になっていて、普通の本を読むのには使いにくそう。

となると。事実上、BooxのNova2、LikeBookの Ares Note、それとnoteとしての書き味がいいと評判の上海のラッタが出してるSupernote A6の3つになるようです。Supernoteは本も読めるという位置づけですが、リーダーとしてどうなのかがなかなかわかりません。またこれはLinuxで、他のはAndroid、ただNova2はAndroid9で、Aresは6です。この差がどうなのかわかりませんが、少なくとも、Google playerが使えなくもない、というところのようです。両方ともに32Gのストレージです。

Nova2ではついには2GのCPUになりました。Aura oneはたしか1Gでした。メモリは3Gです。進化してます。スペック的にはNova2が他のを上回ってます。ネットを見るといろいろと使いにくさ、バグもあげられてますが、これは中国のではよくあること。本を読むだけなので、特に関係ないことが多いです。しかし、肝心のリーダーとしてどうなのか。悩ましい。

2020年7月5日日曜日

I've Made Up My Mind to Give Myself to You

ふと、週末になると、Bob Dylanの新しいアルバムの中にある、I've Made Up My Mind to Give Myself to You を聞きたくなってYouTubeを開いてます。

このアルバム、Rough And Rowdy Waysは、あまりに異例づくしで、もはや誰も言いませんが、もうすぐ80になるミュージシャンが新作アルバムを発表して全英などでのアルバムチャート第一位を獲得ということ自体、調べるまでもなくはじめてでしょう。そもそもノーベル文学賞をもらって新作アルバムを出すなんて。何もかも、すでに伝説です。

だけど、何よりも驚きなのは、この想像力。個人的にはこれは1970年以降に発表したアルバムの中で最高のものに思えます。1970年以降も優れた曲はちらほらと出してきていましたが、ここまで、すんなりほれぼれできるものを出してくれるなんて思いもしませんでした。

とくにこの、I've Made Up My Mind to Give Myself to You、印象的な旋律の中で、今回新たに見つけた声で静かに歌われるこの美しい曲。この詩は彼の詩とは思えないくらいとてもやさしく、わかりやすく、いつまでも残ります。

たまに、かれはものすごく美しいやさしい曲も歌ってきました。古くは、corrina corrina, Spanish is the loving tongue等々。これらは、Love minus zeo/no limit,
sad-eyed lady of the lawland等の謎めいた曲、あるいはハリケーン、のような強いメッセージ性を持った曲などの中に隠れてほとんど取り上げられることはないですが、実はとても叙情的で、なによりも好きな曲です。しばらくするとまた聞きたくなります。

この旋律、なんて美しい、だけどどこかで聞いたことがあるようなという気もしてましたが、YouTubeのコメントで誰かが書いててようやくわかりました。ホフマンの舟歌、オッフェンバッハの有名な歌曲です。気がつかなかった。彼はこれを見事に新しい歌にしてます。ちょうど、ノルウェーの森がFourth time aroundになったように、指摘されないとわかりません。

I'm sittin' on my terrace, lost in the stars
Listening to the sounds of the sad guitars
Been thinking it all over and I've thought it all through

・・・・・・

I traveled a long road of despair
I met no other traveler there
・・・・・・

なんて素直な。なんのてらいもなく、このように歌えるようになるには、とても長く続けなければならなかったのかもしれません。このyouとは、ほとんど、神のことです。ただ、神への愛が語られるというよりは、この出だしにあるように、夜、テラスに出て星を眺めていて、これまでの人生を考えている、そんな中で神に寄り添う気持ちを、そのまま歌ったものです。こんなに簡単にまとめることのできる彼の歌なんて、そうありません。ただ、神とは限らないのかもしれない。この辺がやはりDylan。

無宗教者としては、神のことを歌われてもぴんとこないことが多いのですが、こういう宗教的な気持ちならよくわかります。

Murder most foulが、彼の人生ではじめて全米ヒットチャート首位になったことに気をよくして、ぐっとやる気が出て創作意欲が高まったのでしょう。わかりやすいといえばそうですが、performaerというのはそうやって創作の力を得ます。彼はずっとそうやって歌ってきました。ほんとに、ここに来て彼の素晴らしい新曲を聴けるとは思いませんでした。感謝しかありません。

2020年6月30日火曜日

プラスミドDNAを用いたワクチン臨床試験か・・

ほんとにやるのか、プラスミドDNAワクチン。確かに治療薬が一斉に臨床試験に入ってるものの、特効薬的なのはなさそう。組み合わせならあるかもしれないですが。ならばワクチンというわけで、ワクチンの開発競争が世界中で始まってます。だけど、そもそもプラスミドDNAを注射してのワクチンは、これまで世界中で承認されたことがないはず。この機会にプラスミドDNAワクチン自体の試験をやってしまおうということでしょうか。

今回の報道ではまずは大阪市立大の30名くらいの医療関係者に対して、安全性と効果を確かめるということなので、COVID19に対する抗体ができるかどうかを調べるという試験なのかな。

しかし、日々、プラスミドDNAを扱っている研究者としては、これを自分に注射する気にはなりません。確かに簡単で、たとえばGFPを発現するプラスミドDNAをマウスの筋肉に打つと、緑に光る細胞が出てくるので抗体ができることはあるでしょう。だけど問題は、細胞内に取り込まれたDNAは一定の割合でゲノムの中に取り込まれること。

ものすごく低い確率なので、それが最終的にガン抑制遺伝子を破壊したり、大事な機能を持つゲノムを破壊する確率はかなり低いとは思います。だけど、それがCOVID19で死亡するリスクに比べて無視できるくらい低いかはやってみないとわかりません。

本来はウイルス断片をコードするRNAを注射してワクチンにするのが一番安全です。RNAはあと一段階で蛋白になるので効率も高い。なによりも大事なのはRNAはゲノムに組み込まれることもありません。だけどそれは人に使うレベルに持っていくには技術的なハードルが高く、またすでに米国ではビッグファームによるRNAワクチンの試験がはじまっています。これを作るのは技術的に難しすぎるし、おそらく特許に引っかかって儲からず、準備する時間もない。

それで産業化するために誰もやろうとしないプラスミドDNAワクチンをやってみよう、ということでしょう。だけど、さすがに開発元の阪大では臨床試験をやりたがらない。万が一のことを考えます。

だから近くで、市や大阪府のいうことを聞かざるをえず、またおそらくはうるさ方の少ない(想像)大阪市立大でやることにした、ということかと察します。この、特定の大学の医療関係者に、というところがどうも、うさんくさい。もちろん開発者ご本人も実際にDNAワクチンを打っておられるのでしょうが、自分の大学にはそれを説得できなかったわけで、普通に考えると、これはかなり危ない気がします。

いわゆる遺伝子治療においても、DNAの細胞内への導入が行われます。ただ、これらは、他に助かるめどのない、極めて重篤な症状にほぼ限定されています。それらの臨床試験は、健康な人においてなされているとは、まず思えません。かなり人道的な問題が発生します。

今回開発されたDNAワクチンはさすがに短期的な安全性は大丈夫でしょう。だけど一番気になる長期的な副作用は、10年、20年のスケールでしかわからないので、その様子待ちです。そもそも、この試験、許されるのかな。

2020年6月28日日曜日

米国の悲劇

COVID-19感染が止まりません。南半球はこれから真冬になるので、特にブラジルなど南米において増加率が日に日に増えているのは、やむをえないのかもしれません。北半球で新規感染者数はほとんどの国で減少していますが、ざっと見たところ、唯一の例外は米国。ここでは今月の初旬は一日の新規感染者数が2万人台でしたが、この2週間農地に3万人台を軽く超えて、この3日は4万人台に達していて上昇気配です。
Our World in Data, https://ourworldindata.org/covid-cases のグラフです。

これから夏になる北半球でこれだけ増えているので、これが秋に入り冬に向かう頃には、一体どんな情況になっているか、そら恐ろしいくらいです。すでにベトナム戦争での総死者数58220人よりも新型コロナでの死者数は遙かに超えていて、12万人を上回って、2倍以上の犠牲者を出す事態になっています。

第二次世界大戦において米国での死者数は29万人ほどなので、その半数にも近づいてきました。さらにこれは、戦争時よりもごく短い時間、わずか3ヶ月間くらいに起きたことで、米国史上で最悪の悲劇になりつつあります。

各国の対策によって感染者数と死者数が大きく異なることからも、この感染症が国の施策によって大きく左右されていることがわかります。陸続きのカナダでも、前に書いたようにモントリオールを中心とした被害が広まってましたが、夏に向かうにつれてはっきりとした減少傾向にあることがわかります。こちらも新規感染者数で
総数においても、人口比でもずっと米国より少ないことがわかります。

政治家を選ぶときのほんのちょっとした一人一人の行動がどれほど国家の大惨事を引き起こすかを、米国の悲劇は如実に示しています。選挙戦最終夜にLady Gagaがでてきて、投票する気が失せたのはわかりますが、自分たちの命に関わることは、真剣に行動しなければなりません。かつて、ドイツ国民がヒットラーを民主的に選択した結果、歴史に残る大惨事を起こしたことを思い出します。

ただ、今はそう書いていても、いつ日本が同じようになるかもわかりません。社会の舵取りがいまでは手動運転になっており、腕前がストレートに出てきます。アジアの中で決して低いわけではない日本の感染者数と死亡者数が、今後、さらにどうなるのか、毎日夕方にはどきどきしながらニュースを見ています。

2020年6月27日土曜日

もったいない

人が儲けたお金の使い方にどうこういうのは野暮というものですが、100億円という金額をサイエンスのために出そうというのなら、もっと有効な出し方があろうにと思ってしまいます。柳井氏の京大2ノーベル賞受賞者への寄付の話。それなりに成果は出すでしょうが、これから新しいサイエンスを生むような投資ではありません。ご本人が言っておられるように、安いiPSの作り方などと聞くとがっかりします。

そもそもそういうことに良い人材が集まるわけもないし、そんな研究を行っても、若者の次の職探しは厳しい。何か一つの分野に対して大きなお金を出すということを文科省はよくやってますが、これで採用された若手が任期が切れて次のポストが見つからず、犠牲者がかなり出ます。今回の寄付金に対象を絞ったものにするとその被害はもっと大きなものになるでしょう。

100億あれば、生命科学の世界では、もっと大事なこと、人間の世界を深い意味で高めてくれる数多くの可能性に大きな投資ができます。斬新な新しい科学の可能性に投資を続けるビル・ゲイツに比べて、あまりに貧しい。ユニクロらしいといえばそうなのだけど、日本人としてがっかりします。これをやるなら、大学でなく、ユニクロの中に研究所を作って正規職員として雇用して業務でやってほしい。

日本にはパトロンとして科学を支えるという伝統がありません。科学はほとんど国が支えてきました。芸術も同じ。これがお金持ちの寄付によって大きな発展を遂げてきている欧米との大きな違いです。そういう歴史があるだけ、寄付する側にも高い見識が育ってます。この辺の格差は、こういう学問を取り入れてからの歴史の浅さかもしれません。

企業が儲けたお金をどう使ってもそれは自由ですが、それで若者と、もしかしたらそのサイエンスでできたかもしれない可能性を奪うことになるのであれば、これはよろしくない。両方のプロジェクトも国から膨大な研究費がすでに支給されていて、さらに残りのことをやらせるのは、採用された若者がとても気の毒です。

2020年6月19日金曜日

幸せな日々は長く続かない

これではなんだかわかりませんが、ものすごい希有な瞬間のドラレコの画像です。目の前の右と左の車のナンバープレートに注目。どれくらいの確率で起きるかはわかりませんが、人生に1度あるかどうかということはほぼ確実。
 信号で停まったときに右前の車を見ると、11-11、珍しいなと思って、なにげなく左を見ると、これも同じ11-11。だから何だというのはともかく、空を見ると太陽が2つになってるかもしれないと思ったくらい。めまいがしました。


さて。
幸せな日々は長く続きません。ボブディラン自伝、読み終えてしまいました。半分超えてからはゆっくりゆっくり読んでたのですが。驚くべき作品でした。なるほど、ノーベル文学賞だ。

先に書いたように、レコーディングに入る前のことが書かれていたので、次は奇跡のような作品が生まれる話だろうと思いきや、そんなことは触れられてもおらず。むしろ描かれていたのは、そのあとに訪れた辛い長い日々のこと。

ウッドストックに見つけた美しい静かな住まい、新妻のSaraとの間に生まれた子どもたち、その静かな幸せな日々はつかの間で、バイク事故をいいことに隠匿していたところ、激しい追いかけがはじまり、住んでる家の周りをうろつかれ「巡礼され」、デモ隊が家の前を往復して世代の良心としての義務を果たせと要求され、屋根を登られ、食料庫が荒らされたりする恐怖、そんな中で逃れるように家族と引っ越しを繰り返す、
いつも玄関でワタリガラスが不吉な声を上げていた
そんな辛い日々のことでした。そして、あの奇跡のような作品はもはや遠く、引退のことを考え、もう終わってしまった、という想いを振り払うことができなくなったことが、なんの覆いもなく描かれます。

彼の望んだのは、Saraと3人の子どもたちとの静かな生活。珍しい写真がありました。
https://images.genius.com/cdb98221e4c2586713c629fa02b90795.500x511x1.jpg

たしか80年代だったと思いますが、トム・ペティと18ヶ月に及ぶツアー、イスラエルなど世界を回るツアーの中、彼の書いたのは

これが最後のツアーになるだろう。わたしはもう、やる気をなくしていた。当初感じていたものは、しぼんで消えてしまっていた。トムは絶好調で、私はどん底にいた。彼との差を埋められなかった。何もかもが砕け散った。自作の曲が遠いものになり、私は曲が持つ本質的な力を刺激して生かす技術を失い、上っ面をなぞることしかできなくなってしまった。もう私の時代は終わった。心の中でうつろな声がして、引退してテントをたたむのが待ち遠しかった。
・・・・・
わたしはいままでに多数の曲を作ってレコードにしていたが、ライヴで歌う曲はあまり多くはなかった。たしか20曲程度だったと思う。それ以外の曲は、あまりに暗号めいていたりくらかったりして、わたしにはもう、それらの歌に豊かな創造性を与えて歌う能力がなかった。重たい腐肉の包みを運んでいるも同じだった。それらの歌がどこから生まれたのかがわからなかった。光は消え、マッチ棒は端まで燃え切った。私は形だけの歌と演奏をしていた。いくら努力しても、エンジンはかからなかった。

そしてトム・ペティのバンドのメンバーからはボブ・ディランの昔の曲の数々をリクエストされて、多くの曲をリハーサルしたがっていることに気づかされ、だけどそういう曲はほとんど自分がなぜ作ったかすらわからない、そんな感情に圧倒されてしまい、いたたまれなくなります。

自分が犯罪者のように思えて、その場にいたくなかった。すべてが間違いだったのかもしれない。どこか精神を病むものたちのための場所に行き、よく考える必要がある。

そして雨の中、もう戻らないつもりでスタジオを出て通りを歩いていたとき、年配のシンガーの歌うジャズバーに入ります。そこで、その彼の歌う、「うまれつき賦与された自然な力」が天啓のように彼の元に訪れて自分の歌を新しいやり方で取り戻す、そうやって、ツアーを続ける方法を見つけて、「自動操縦の船に乗っているように」コンサートを続けます。

それでもわたしは辞めるつもりでいた・・・・引退しようと思っていた。これからもツアーを続ける気はなかったし、その気持ちを変えようとも思わなかったーーーどちらにしても、私の音楽を聴きに来る人もたいしていないと思っていた。・・・・私の演奏は一種の演技でしかなく、手順に従って型どおりにやればいいだけの儀式は退屈だった。ペティとのコンサートでも、観客が射撃訓練場の人型の的に見えたことがある

なんとか、歌うための方法を見つけて続け、だけどまたそれが切れて、パニックに襲われる。そんな繰り返し。

ふと思う、昔のこと。

昔、コニーアイランドのビーチで寝そべっていたとき、砂の中からポータブルラジオを見つけたことがある。GE社製の自動充填式の美しいラジオーーー戦艦のようなデザインーだったが壊れていた。それを思い出して、この歌の冒頭に使ってもよかったかもしれない。しかしほかにもたくさんの壊れたものを、私は見てきた・・ボウル、真鍮製のランプ、つぼや瓶や水差し、建物、バス、歩道、木、風景。こうしたものが壊れると心が乱れる。世界中のすばらしいものを、わたしが大きな愛情を抱くものを思い出すのだ。それはひとつの場所ーーそこで夕刻を迎え夜を過ごす場所ーーである場合もある。こういう場所もやがては壊れて、もとにもどすことができなくなる。

レコーディングに向かう、ニューオーリンズでの幻想、

わたしは薄暮の中を歩いていた。空気は黒く濃厚で、それに酔ってしまいそうな感じがした。通りの角のコンクリートのでっぱりに、痩せた大きな猫がうずくまっていた。そばまでいって前で止まっても、動こうとしない。   ・・・中略・・・  ニューオーリンズで最初に目につくのは埋葬地ーーー墓地であり、その冷え冷えとした場所はニューオーリーンズにあるもっともすてきなもののひとつだ。そばを歩くときはできるだけ静かにし、死者の眠りを妨げないようにする。ギリシャ風の墓地、ローマ風の墓、石づくりの埋葬所ーーー特別注文の宮殿のような霊廟。密かに朽ちていくものたちの印やシンボル。罪を犯して死に、今は墓の中で生きる女と男の幽霊たち。ここでは過去は早々には終わらない。ひとは長い間死んでいられる。幽霊たちは光に向かって競争する。どこかに到達しようとする魂たちの激しい息づかいが聞こえてきそうだ。

この本は最後の章で、レコーディング前の話、ミネソタを出るまでの話に戻ります。母のこと、激しい衝撃を受けたウディ・ガスリーの歌との出会い、NYに出て西四番のアパートの狭く、息苦しい部屋で多くの時間を過ごしたスージーのこと。彼の歌がどうやってできてきたかは、この章によく書かれています。ある歌に出会ったときのこと、

この歌の原動力は何なのか、なぜこんなに効果的なのか。私はそれを知ろうとして、分析してみた。そしてこの歌では、すべてのものが最初からそこにあって見えているのに、それがわからないという事に気がついた。何もかもが大きな金具で壁に留めつけてあって明白だったが、各部分をまとめた全体を見るには、一歩後ろに下がって最後まで待たないといけない。

これが彼の歌の作り方。わかりにくく、だけど極めて正確で、いつも景色が残るのはこの方法の故。たとえば、前にも書いた、fourth time around。これは有名な「ノルウェーの森」の返歌のような曲という話は前に書きましたが、これもある物語の各シーンを切り取って歌ったものと思えばわかりやすいかもしれない。あるいは、たぶん、Sad Eyed Lady of the Lowlands、もそう。その世界をさまよい歩くことができる。

中学生の時に感じたことは、不思議なくらい間違っていなかった。たとえばNew Morningというアルバムは1970年に発表された2つのアルバムのうちのひとつ。その前がSelf portraitという、彼も述べてるあらゆるものを詰め込んだもので評判が悪かったそうですが(私はこれは大好き)、そのわずか4ヶ月後に発表されたもの。これはアコースティックな曲が主で、あのBob Dylanが帰ってきたと好評だったそうです。だけど、この自伝によると、じつはこれは元々マクリーシュという高名な(知りませんが)詩人の依頼により書いていた戯曲のための音楽で、結局、彼の期待と合わずに断念して、それらの曲をどんなもんだろうとまとめたアルバムだったらしい。 If dogs run free、こんな曲、と思ってましたが、やっぱりそう。

いつまでも引用を繰り返していたい、だけど、このあたりで。自伝は、3冊書くことを出版社と契約したらしいですが、彼が書くわけもなし。この本は、とてもかけがえのない本になりました。もしこれを読まなかったら。そんな人生は考えたくないくらい。また、個人的には、今読んだからこそ、よかった。これが2006年だと、この本の価値はわからなかったかもしれない。歳を取ってはじめてわかることもあります。

2020年6月13日土曜日

ボブ・ディラン自伝

長らく封印してたので、2005年に出版された自伝は手にしたこともありませんでした。もともと自伝はあんまり好きじゃないし。だけど、先に書いたmurder most foulを何度も聴いて詩を見ていると、一体、彼はどんな人生を生きてきたのか、読みたい気持ちは抑えられません。早速、「日本の古本屋」で調べて500円になってたのを購入。こういう本は古くて、ぼろぼろになってるほうがいい。裁断してaura oneに納まるだけなのでというのはさておいても。

先週配達されて、すぐに、それまで読んでたサマセットモームを放り出して(比喩)、読み出したところです。まったく驚き。確かにあれだけ詩が素晴らしいのだから、文章もいいだろうとは思いましたが。

ニューヨークに出てきた若者があちこちのカフェなどに出入りして、ステージに立たせてもらうようになり、agencyと契約するようになったとき、宣伝用に記事を書いてる広報の担当者にインタビューされてきたとき、彼の望むようなシンガーの像、ホーボーで転々としてきて貨物列車に乗ってやってきたというでっちあげた経歴を話します。そのあとで、彼はこう書きます。

「貨物列車で来たのではなかった。わたしは、五七年型インパラの4ドアセダンに乗って中西部を出てアメリカを横断した。シカゴをさっさとあとにして、けぶった街、曲がりくねる道路、雪に覆われた草原を越えて進み、東に向けていくつもの州境を越えた。オハイオ、インディアナ、ペンシルヴァニア、24時間ぶっ通しのドライヴ、時折ドライヴァーと話をして、あとはほとんどをバックシートで寝て過ごした。」

そう、こうやって、けぶった町、曲がりくねる道路、をインパラに乗ってNYにやってきたのです。すべてがここからはじまった、ここで彼はまるで海綿のようにあらゆるものを吸収し、見聞きしたものを脳に刻み込みます。驚くほどの画像記憶力。

たぶん一番大事だったのは、イジーが経営する小さなお店フォークロアセンターでの時間でした。

「店の奥に、薪を焚くだるまストーブや複製画やぐらぐらする椅子のある部屋があった。その壁には昔の愛国者や英雄の絵がかかり、クロスステッチのデザインの陶器類、ラッカーを塗った黒いロウソクなどの工芸品が多く置いてあった。狭い室内いっぱいにアメリカのレコードがあり、蓄音機もあった。イジーは私をその部屋に招き入れてレコードを聞かせてくれた。私はその部屋で大量のレコードを聞き、巻いて保管されている大昔のフォークの楽譜まで見た。」

彼は、歌へのものすごく強い好奇心があり、ここは宝の部屋だったのでしょう。フォークロアセンターを出て他のシンガーと茶店で話していたとき、彼の耳にはほとんど話が聞こえてませんでした。

「ミルズ・タヴァーンの外は、温度計が零下華氏十度になろうとしていた。行きが空中で凍りついたが、寒くはなかった。わたしはすばらしい光に向かって進んでいる。」

この感覚、なにかやろうとしているときの確信に満ちた若者の気持ち、サイエンスでもそうですが、これがこの世を動かします。

地下に酒屋のある連邦様式の建物のエレベータのない最上階に寝起きしていた頃のこと。

「わたしはベッドの上で起き上がり、あたりを見回した。ベッドとはリビングルームのソファのことで、鉄製のラジエーターからはスチームの熱気が上がってきた。暖炉の上に掛かった額縁の中から、植民地時代のカツラをつけた人物がこちらを見つめている。ソファの近くには縦溝彫りの足に支えられた木製の戸棚、そのそばに丸みのある引き出し付きの楕円形のテーブル、一輪の手押し車のような椅子、跳ね上げ式の物入れがついた紫色の合板の小さなデスク。もとは車のバックシートだったスプリング入りの長いす、丸い背と巻き込むような形の肘当てがついた低い椅子。床にはぶ厚いフランス風のラグ、ブラインドのあいだから射しこむ銀色の光、延々と続く屋根の輪郭にアクセントを添えるペンキ塗りの板壁。」

ほとんどDylan Thomas。

幼い頃の記述から。

「わたしはごく小さい頃から、列車を見て、その音を聞いていた。その光景と音はいつも安心感を与えてくれた。大きな有蓋貨車、鉄鉱石運搬車、貨物車、客車、寝台車。故郷の町では、少なくとも一日のうちの一定の時間帯は、どこに行くにも踏切で止まって、長い列車が通り過ぎるのを待たなくてはならなかった。線路は田舎道と交差していることも、道路に沿って続いていることもあった。遠い列車の音を聞いていると、心が落ち着いた。何も失われたものはなく、故郷と同じ地続きの場所にいて危険はなく、すべてがうまくまとまっているという気持ちになった。」

「通りの向こう側で革のジャケットを着た男が、雪をかぶった黒のマーキュリー・モントクレアのフロントガラスから雪を落としている。その向こうでは、紫の長衣を着た司祭が門を抜け、雪に足を取られながら教会の中庭を歩いて、何かしら大事なお勤めに向かっている。近くでは、ブーツを履いた無帽の女がやっとの事で洗濯物袋を運んでいる。」


この建物の所有者はレイという反体制の知識人。ここでいろんな本を読み、これが彼の物語の素地を作ったのでしょう。彼の歌いたかったのはラジオから流れる45回転盤、ラジオでいつもかかっているようなものでなく、彼によると、堕落した密造酒の売人、我が子をおぼれさせた母親たち、一ガロンあたり五マイルしか走らないキャデラック、洪水、組合の建物の火事、暗闇と川底の死体、でした。

NYに駆り立てたのは歌への強い信念と好奇心でした。彼の故郷の町で州兵訓練用体育館のロビーで歌っていたとき、ゴージャス・ジョージという有名レスラーが、付き人と薔薇を持った女性に囲まれながらまさに豪華にオーラに包まれてステージに登場して時のこと。その前に演奏した彼にひと頃、「いい調子だよ」と云ってくれて

「彼から認められたこと、そこから勇気を得たこと、それだけでその先数年間やっていくのに充分だった。思うところがあってひたすらに何かをやっているとき、そしてだれもその維持に気づいてくれないときに認めてくれる人がいたということ、それだけで充分な場合がある。」

そう、若者にとっては、ほんの一言の励ましが、その大事なときにもらえることが大事、それで一歩を踏み出せます。

それにしても見事な訳です。菅野 ヘッケルという訳者、バイリンガルなのでしょうか。この詩人の回想は、彼の見聞きした世界がどれほど輝きに満ちた、まるで彼の若い頃の歌のように続きます。寝る前までのひとときが再び豊かなものになってきました。